LALALA | ナノ



LALALA
03






足を進めながら出るのはため息ばかりだった。
これもいつもの事だけど。立ち止まらずに、必死で家まで帰る。
そう長くない道のりを何も考えずに無心で足を前に出す。




「ただいま…」
「おかえり洸祈、…また陽兄の所行ってたのか?」

玄関の物音で気づいたのだろう、リビングから光流が顔を覗かせた。
明朗で眩しい、名前負けしていない俺の兄だ。陽輔のところから帰って、一番に見るには辛くて、そんな気持ちを追い出すように光流にほほ笑んだ。

「うん。光流は学校帰り?」

帰ってきたばかりなのだろうか、光流はまだ制服をきっちりと着込んだままだった。

「あぁ委員会で遅くなったんだ」
「そうか、大変だな」

片手にしていた麦茶を持ち上げ、飲むか?と仕草で聞かれ、うなづいた。

「で?どうなの勉強は。陽兄の教え方はやっぱり上手いの?」
「わかってるだろ?教え子が俺だぜ?いくら教えてもらったって、そんなすぐには頭に入ってこないよ…眠気ばかりが勝ってさ。ってことで少し寝るわ」

陽輔の家に頻繁に通うのを怪しまれないようにした言い訳は「勉強」だった。
光流に追いつこうだとか考えもしないけど。
飲み干したグラスをその場で光流に返すと自室に向かった。
ようやくたどり着いたベットに横たわると、体の重さがリアルに感じ取れた。
このまま眠ってしまうまえに、ブレザーとネクタイを外してベッドの外へと落とした。

(光流、…制服姿だった)
陽輔は俺にいつも光流を求めていた。
ヤりたくなったら、光流と同じ制服でそのまま家に寄れということを含めて帰宅時間までに連絡をよこす。
髪型だって、髪の色だって、陽輔はいつも光流を俺に重ねて。
髪は黒にしろ、もう少し短く切れ、と何度も言う。

まるで親に反抗するように染めた髪は陽輔に対する反抗だった。
優等生な光流とは逆に、着崩して着る制服も、片耳に開けたピアスも、全部、全部。
親がいい顔をしないのも、光流に困ったように笑われるのも何てことない。関係ないんだ。

陽輔だけなんだ。
俺が見てほしいのは陽輔だ。
俺は洸祈だと、そうアピールしているのは陽輔だけにだ。
そんな反抗だってこと、誰も知らない。

これが恋だとか考えたくない。
ただ、初めから俺には陽輔しか居なかっただけ。
陽輔だけが俺のことをちゃんと洸祈として見てくれていたから。
心を許せると思ったのも陽輔だけだった。
寄りかかっていたんだ、頼っていたんだ。

小さい頃からの積み重ねられたそんな感情は、愛だとか恋だとかに変化して。
今はもう、その感情がどんなモノだったか思い出そうとしないだけ。
ただただ、光流を重ねる陽輔に洸祈という俺が消されたくないだけだ。
ちゃんと洸祈っていう人間がそこに居ると、見てほしいだけなんだ。

腕を瞼に乗せて、目元やこめかみの辺りに感じる痛みを追いやる。

「良いんだ」

擦れたそれは声として出たのかも判らない。
これでいい。
陽輔の熱い舌も、触れる指の動きも、気持良さそうな顔も、欲望を露にした顔も。
光流の知らない陽輔を俺が知っている。

俺のこと見てなくても、俺はそんな陽輔の姿を目に焼き付けていくから。
それだけで、俺は特別だって思うようにするから。
それだけで、俺は嬉しいと思えるから。






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