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LALALA
21


 ―――hikaru


洸祈が帰ってこなかった。連絡もなしに、というのは初めてのことだ。ずっと違和感のあった笑顔が影を落とす。
なにか、あったのだ。
思い詰めている洸祈になんとなく気づいておきながら何もできなかった。

なんとなくってなんだ。なんとなく、なんとなくで見過ごして…。
双子だぞ、俺たちは。
あの勘は確かだったのに、なんで洸祈に確かめなかったのか。
悔しくて、やりきれなくて。


洸祈の彼女はひとしきり泣いていた。
ひどい、と小さく声にして洸祈をなじる彼女の肩を抱え、取り合えず落ち着くのを待った。彼女が何かを言うのだが、俺の頭には洸祈の事しかなかった。
洸祈は人を傷つけるような人間じゃない。
自分がたくさん傷ついてきた分、人の感情には敏感すぎるくらいなんだ。
だから、彼女に対する態度が俺だって信じられなかった。きっとそこまでの何かがある。
俺の知らない何か。
今更昔のように表立って俺たちを面白おかしく比べるような奴はいない。それでも視線はある。洸祈も俺ももう慣れてたことだ。
きっと、もっと大きな。洸祈の感情が乱れる何か。

洸祈の彼女の頭が自分に傾くのを感じて、嫌な気分になった。コレか?と漏れそうな溜息を堪えた。
昔からあったように、俺へ向ける感情を洸祈でごまかそうとしたのか、と。体を引いて、彼女に告げる。

「ごめんな。洸祈の代わりに謝るよ。でも…洸祈はこんなことする奴じゃないんだ」
「や、私っ、」

俺のシャツにしがみついて首を振る彼女の態度は、洸祈を許す許さないじゃなくて、すでに俺へ向かう甘えに変わっていた。恐怖からとも考えたが、それを打ち消した。
洸祈が許せないのなら、洸祈のことをその程度しか知らないという事だ。

「わかった。もう、洸祈のこと…そっとしておいてやってくれないか。君がまだ洸祈と一緒に居たいと思うなら、洸祈と話し合えばいい。そうじゃないなら、そっとしといて欲しい。俺にはもちろん関係ないことだけど。こんなことがあった手前、俺にも近づかないでくれ」
「え、」
「洸祈のためでもあるから」
「そんな、光流くんは関係ない…」

その表情にボロが出た。
気持ちはどんどん冷えていく。
肩を抱いたまま、玄関に促した。最後に俺から謝って終わりだ。
きっと彼女だって俺の代わりで洸祈のそばに居た訳ではないかもしれない。断言なんてできない。けど、奥底の気持ちに、かすかにでもあるのならそれは洸祈の不安要素だ。
それなら要らない。



出て行った洸祈は数時間で帰ってくるものだと思ってた。
携帯にも全く出ず、連絡が来るわけでもない。陽兄にも連絡をいれるが来てないらしく、残るはあの石川か、と。
イライラした気持ちを抑え、洸祈は無事だと思い込んで過ごすしかなかった。

翌日、洸祈の姿を探しにクラスへ向かったが、洸祈の姿は見つからず、代わりに石川が俺の姿を見つけて寄ってくる。舌打ちしたい気分だ。間違いなく石川は何か知ってる。

「よう」

にやりと笑った石川の顔に苛立ちを覚える。が、これは一方的な俺の嫉妬だと気づいて表情に出すのを思いとどまった。

「洸祈のことなんだけど…」
「あぁ、俺んちに居るよ。洸祈には家に連絡しろって言ったんだけど…伝わってない?」
「伝わってない。居場所が分かったから良いよ。洸祈が世話になってごめんな」

石川が周りを気にして、それから歩き出したから、きっと付いて来いという事だろう。校舎の端、渡り廊下の手前で石川の足が止まった。

「なんか、あったのか?」

そう問いかける石川の眼差しは真剣で、洸祈のことを考えてくれてるんだと思うと、俺の気持ちも楽になった。
洸祈には心配してくれる友達が居るんだと。それだけで安心する。

「…何て言っていいか…。女が遊びに来てて、ちょっと揉めたみたいで、それで出て行った…のかな」

きっと、俺と同じ空間、家に…居たくないってところだろうか。
昔からわかってたつもりだ。俺が洸祈をダメにしている。
俺さえいなければなんて…考えたくないけど。それくらい、洸祈を追い詰める存在でしかないのなら、俺も要らない。
きゅっと口を結んで、石川に伝えるべきことを考えた。

「んー、まぁ。そういった女がらみは今更なんじゃないの…」

確かにだ。昔からあったことだ。だからこそ今回の洸祈の動きが解らなかった。女性を傷つけるようなタイプじゃない、今まで洸祈が代わりにが傷ついて終わってたんだから。

「お前は…、素直に出るんだな」
「なに…が?」
「悲しみも、不安も、安堵も全部表情で伝わる。洸祈は難しいな」
「……あぁ」

知ってる。どれだけ堪えて生きてきたか。
俺は一番近くで見てたんだから。

「昨日…洸祈から電話もらってな、迎えに行ったんだ。あいつ、血まみれだった」
「――――っ!」
「あ、安心しろよたいしたことない。血って言っても口からと鼻から程度だし。相手もちょっと遊んだ程度だろうよ。怪我見られたくなくて俺んちに居るからさ。じきに帰ると思う」

バクバクとうるさいくらいの心臓の音がした。
大丈夫だと聞いても、なかなか落ち着かないものだ。ちゃんと顔を見たい。怪我した顔だって良い、ちゃんと姿を見たかった。
けど、洸祈が今一番会いたくないのは、きっと俺だから。

くしゃりと頭を押さえられた。

「んな顔すんなって。ほんとお前らそっくりだな」

石川の腕を払って睨みつけた。
けど、洸祈が石川を頼った気持ちが少しだけわかった気がする。
近すぎない。けどちゃんと支えてくれそうな態度に、洸祈は安心するんだろう。
俺には絶対回ってこない役回りだった。

「石川に任せるのは悔しいけど…頼むな」







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