LALALA | ナノ



LALALA
20





現れた翔吾は俺の服を脱がすと、上からピンクのシャツをかぶせた。胸元には赤とオレンジとピンクの花がプリントされてた。
とりあえず血が目立たなそう、って物をクローゼットから引っ張ってきたらしい。
だからシャツのチョイスがダサいんだって。

キコキコと静かな夜に翔吾の漕ぐ自転車の音だけが響く。翔吾は何か鼻歌を歌ったりしながら、翔吾の家に向かった。その間、何も聞いてこようとはしなくて、それがありがたい。


翔吾の両親はもう眠っているらしい。
静かにな、とだけ言われて風呂を借りた。汚れを落とすだけのシャワーを浴びて、出された服を着て翔吾の部屋に向かった。
デニムから引っ張り出した携帯には光流からのメールが届いていた。干渉にならない程度のどこにいるのかという質問が並んでいる。
俺は何も返さなかった。

「しばらく家に居るか?」
「―――、」

なんと答えようかと悩んだ。
翔吾には迷惑をかけたくない。今風呂を貸してくれて、家に上げてくれただけでもありがたいのだ。明日にでもお礼を言って出なければ。
けれど、この生々しい傷のまま自宅に帰ることもできなかった。
親だけなら何とか顔を合わせずに過ごせる自信があるが、光流はそうはいかないだろうから。

「家は気にするな。俺の部屋に居れば親は何も言ってこねぇし…まぁ、その、お前の親が探したりするだろうし…な。電話してしばらくここに居るって言えばいいよ」
「学校…も。明日うまく言っといてくんない?」
「あー、その顔じゃぁな」

光流と顔を合わせにくいというのをわかってもらえたらしい。
陽輔とは違う安心感。陽輔という居場所をなくしても、ここがまだあると思えるだけでよかった。
そこまで考えて自分は翔吾には何も言っていないことを思い出して罪悪感が湧き上がる。

「どっか痛む?たいして薬とかねぇけど…軟膏程度ならある。あと湿布な」

黙って、何も聞かないで俺を甘やかしてくれている。
自分は利用してるだけだ。何も返せていないのになんで俺なんかと友達でいてくれるんだろう。
友達でいてくれてうれしい、感謝している。何一つ伝えたことはない。
ぜめて自分が今日どうであったか、それくらい言わなきゃ、翔吾だってこんな姿の俺を泊めるんだから。

「……俺さ、どうしていいかわかんなくなって。ふらふらしてたんだ。したら、前から来たやつが、一瞬俺のこと光流と思ったみたいで、でも、すぐ俺だって気づいた。なんかさー…そういうの、慣れてっけど。なんか今日は…。俺、笑っちゃって、どうも気に入らなかったみたいで、そんな態度が」

ふてくされてるように見えたり、光流をひがんでるように見えたりするのはどれもそんなつもりなくても、にじみ出てるんだろうな。

「いいよ、説明いらねぇよ。そんな日もある」

切れた口元におざなりに絆創膏を貼り付けられる。
痛みに顔をしかめたら翔吾は軽く笑う。翔吾も昔からやんちゃする方だし、そういったものがストレス発散の一つの方法だとも言っていた。
俺だってきっと、今日のこれはストレス発散だろう。
陽輔のことで、考えることすらままならなかったのに、今はまだ現実味があるのだから、気持ちの発散にはなったのだ。人の手を借りる形だけど。
受ける痛みは相手の今まで物言わぬ感情が形となったものなのだろうと思うと、抵抗する気も失せさせた。

「ん…、で、翔吾に、電話する理由にした」

陽輔のことは言えないし、雰囲気くらいしか伝わってなかっただろう俺の言葉に、湿布の入った箱を開けようとした翔吾の手がピクリと止まった。
そんな態度に言葉選びを失敗した、と思った。もう少し考えてうまく言えばよかった。
翔吾を頼りにしたと知って不快だっただろうか。困った姿を見せれば翔吾が手を貸さないわけはないなんて、俺の甘えを翔吾は許してくれないのかもしれない。
今までも俺の世話してくれて、散々頼りすぎてたくらいだ。

急に不安になって、逃げだしたくなる。
笑って、ごまかそうと顔を上げると、翔吾は眉間にしわを寄せ、明らかに不快をあらわにしていた。

何一つ言葉にしなければ良かったと後悔した。
陽輔に気持ちを伝えたのもこの口だ。慌てて口を抑え、笑った。
出てしまった言葉は飲み込めない。
うまく、ごまかさなくては。

うまく、言葉を探して、理由を作って、

「あ、―…わり、俺…」

うまく言い直しして、ここを出なくちゃいけないと思った。
ぐちゃぐちゃと絡み合った頭の中は逃げることしか選択できなくなって、腰を上げようとしてたところに、翔吾の手が俺の膝に乗った。

「そんな理由がないと俺に電話できないか」
「―――、」
「怖がるなよ。言葉…俺の言葉も、怖がるな。俺はお前の友達だろ、怖がらずにどんどんぶつけろ」

うまく笑えていない。
自分の指がかすかに震えていた。

「落ち着け、洸祈。俺はお前の友達だ。何もなくたってここに遊びに来ればいいんだし、泊まっていけばいい。何も理由なんかいらない」
「ごめ、ん」
「来客用の布団とかださねぇけど良いだろ、俺と一緒に寝ようぜ。お前怪我してるし、ベットから落ちたらあぶねーし、壁際な」

翔吾を傷つけた。
けれど、そんなそぶりを見せない翔吾はぎこちない笑いを張り付けた俺の服を脱がして、湿布を貼っていく。
他愛のないテレビの話をしながら。
明日の俺の休みの理由を考えながら。









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