LALALA | ナノ



LALALA
19








ふわふわした意識の中で、やってくる頬の痛み、関節の痛み、体の痛みに、“そうか”と認識する。
それを何度も繰り返し繰り返し、そして、ふっと開いた視界の闇に、ようやく自分の状態を脳に入れた。
指先をゆっくり開き、再び力を入れて握りしめる。

大丈夫だ、動く。

ゆったりとした動きで立ち上がろうとして、バランスを崩し膝をついた。
手のひらについた砂は灰色に近い。鼻につく鉄の匂いは自分の血の匂いだけじゃなかった。すぐそばにある鉄パイプを見つけて、これで殴られなかっただけ良かったんだとほっとした。相手もそこまでするつもりもなかったんだろう。

意識はまだ浮ついている。
再び立ち上がって、今度はあたりを見回した。
建設途中の建物の敷地内だった。あたりには鉄筋なんかが積み重ねられている。
人ひとり通れるくらいの入り口を見つけて、記憶が少しずつ戻ってきた。


陽輔の家を出てから、目的もなくふらついていた。本当に何をするわけでもなく。
どうしていいかわからなかった。陽輔から何一つ言葉はもらえなかった。
うなだれる陽輔をそのままに出てきた。家に帰る気にもなれず、どこか頼れる場所も俺にはなかった。そんな自分がまた惨めだった。
一人でいいなんて、思ったのは遠い昔だ。ずっと、ずっと、一人だって思ってたけど、俺には光流がいた。頼れるのは陽輔だった。

目の前に知った顔があった。
この先のゲーセンから出てきたのだろうか、少したばこの匂いを纏った奴ら。
その中の二人は同じ学年の奴。あとの一人は一つ先輩。
向こうは俺の顔を見て、一瞬知った顔だとハッとした。そしてすぐにあの光流と俺とを比べる視線を送ってきた。
そうだ、俺は洸祈の方だよ、とでも言うように笑みがこぼれた。

どうやらその笑みが気に入らなかったらしい。
馴れ馴れしく肩を組んできて、ニヤニヤ何かしゃべってた。俺には何も聞き取ることはできなかった…いや、聞かなかったんだ。
流されるようにここに連れ込まれて、突き飛ばされて転がった。
何か光流の名前が出た。光流が気に入らないのか、とも思ったがあいつが嫌われることなんてないだろう。ただ俺を面白がってるだけだ。
気に入らないことを見つけては手を出してストレスのはけ口にしてるんだろうか。
抵抗もしていたけど、相手の手が俺の喉を押さえつけるようにして頭を地面に押さえつけられると、あの教師を思い出して鳥肌が立った。そして俺は抵抗をやめた。
もう、どうだっていい。
なるようにしかならない。
ここで俺がどうなろうと、たとえ何かを失ってもそれはもう仕方ない事なんだと思った。

ぐいっと袖で顔を拭うとシャツが血と砂で汚れた。
軽く体をはたいて汚れを落とすと転がっていた携帯を拾った。少し先に財布も落ちていた。財布を丸ごと持っていかれなかっただけ良かった。中身はたいして入ってなかったし、なんてことはない。
財布を拾い上げると、肘に痛みが走って顔をしかめた。軽く腕を振って、肘の痛みを散らそうとしてみる。折れてはない。やっぱり中途半端だな、とまた笑ってみる。
もぎ取るくらい、してみればいいのに。

一人分の入り口から抜け出して、扉を丁寧に閉めた。

全部俺が引き寄せたことだ。
陽輔をあんなに後悔させてしまった。
そこまでずるずると引き込んでしまったのは俺だろうし。
俺のようやく紡いだ本当の言葉は聞いてすらもらえなかった。

こぼれた一筋の涙を、再び汚れた袖で拭った。

殴られた事を理由にすれば、翔吾のところへ行けるだろうと俺は携帯を開いた。

「あいよー」

五回の呼び出し音の後、間の抜けた翔吾の声が届いた。

「…、翔吾?」
「――どうした。今どこ」

勘のいい友人は辛いな、とちょっと思いながらも、そんな翔吾に救われるようだった。

「なんで」
「わかるよ。音がする。外だろ?お前がこんな時間にかけてくんのもおかしいし、外ってのもお前らしくない。で、どうした」
「うん、うん、迎えに来てくれたり、する?俺、血まみれなんだよねー、そこそこ」

血のほとんどは鼻血と口からの物だったけど、白いシャツは見事に赤く染まってた。
翔吾に場所の目印を伝えながら、こぼれたものが鼻血だと思って袖で拭った。

携帯を閉じて、人目につかないように建物の隙間に座り込みながら、鼻血じゃなくて涙なんだな、と気づいて、少しだけ泣いた。






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