LALALA | ナノ



LALALA
18






家を飛び出したものの、行くアテなんてあるわけがなかった。翔吾の所へとも思ったけど、いつもと同じ姿でいる自信がなかった。
翔吾の事だから心配するだろう、どうしたんだと尋ねられて逃げる言い訳を考える事も面倒だった。

こんなとき、以前なら――、

「陽輔…、」

陽輔なら、何も訊かずに居てくれるだろうか、たとえ身体を引き換えにしても、数時間時間を潰す居場所があればいい。
最近会っていなかったから、「光流」と身体を求めるだろうか、俺は全てを遮断して、むしゃくしゃした気持ちを発散させる為だけに受け入れるだろう、それで…良いじゃないか。今の俺には丁度いい。

久々に足を向けた陽輔の家にも、あのときの光流の姿を思い出して棘が刺さるようにピリピリと胸が痛んだ。
諦める事があたりまえでも、まだ俺には感情があって、望む事もやめられない。
小さく呼吸をして、インターホンを押した。

「久しぶり」
「おお、どうした急に」

久しぶりの陽輔の姿に心躍った。
少し距離を置いてしまえば、こうやって尋ねる事が当たり前じゃなくなってしまう。
昔の関係に戻ったような錯覚さえ起こさせた。
離れていれば、陽輔ともとに戻れるだろうか?
戻っても陽輔の気持ちが変わるわけではないだろう。俺の存在位置が変わる程度だ。光流は光流。陽輔の気持ちをとらえたままに変わりはないだろう。

久々に訪れた陽輔の部屋の違和感。その違和感はすぐに分かったのだけど。

「模様替えした?」
「あぁ、ちょっとな。位置変えたりラグと布団と買い換えたくらい」
「ふうん…」

ベッドの位置を変えたおかげでベランダに出やすくなっていた。光を大きく取り込んでいるように思う。ラグも淡い色に変わり部屋全体が明るい。
ベッドを背もたれにして床に座り込んだ。すぐ傍に座る陽輔に、いつもよりも含んだ気持ちを込めて見上げた。

誘った。陽輔がその気になるように、できるだけ光流に近づくように自分を偽り演じて。

「洸祈、その目どうした?左目赤くなってんぞ」

触れる指先の優しさに、緊張が走った。
違う、違う、そんなのが欲しいんじゃないのに。欲しかったはずの優しさに、胸が痛い。キリキリと引きちぎられそうな痛み。それは警告に似ていて…。

「陽輔…?」
「どうした?…ゴミでも入ったのか、擦ったりすんなよ」

思わず陽輔の腕を取っていた。いつもなら、いつもの陽輔ならこんな俺をすぐに押し倒し、今頃あっという間にベッドの上だ。
こっちの意見なんて関係ないくらい急速なのに。

「なんで――」

なんでいつもと違うの、陽輔。
今の俺に優しさはいらない、必要とされたい、それだけなんだ。

「洸祈…」

陽輔を引き寄せた。
きっと初めてだ。俺からこんな行動を取るなんて。陽輔の首筋に唇を這わせて、それから唇へと…。

「洸祈っ!」

ぐいっと引き離されるその衝動に、頭が着いていかない。視界と思考が渦巻いていた。

「…陽輔、何、で?」
「もう、やめよう。コレ、やめよう…」

優しく、慰めるように抱きとめられて、また胸が痛んだ。俺はそんなに可哀想なヤツだろうか。散々身代わりにされて、自分から誘えば拒絶されて…。

「飽きたとか?それとも、光流と上手くいったとか?」

俺はもう必要ない?
優しく抱きしめてなんてもう望んでない。

「違う…ずっと、思ってたんだよ。この関係を終わらせなくちゃいけないって。洸祈を傷つけてる事分かってたから…。けど、お前も行為を始めたら求めてくるだろ?俺、調子乗って、快楽ばっかり優先で、向き合いもしなかった」
「――それで、良いだろ!!!」

寂しげに陽輔が笑う。
そんな目で見ないでほしい。
何も与えられないと、言われてるようだ。
望まない。俺はもう望まないから、陽輔…。

「駄目だって。…やっと何とかしないとって思ったんだよ」

今更?もう遅いじゃないか。俺たちの関係はなかった事には出来ない。そんな陽輔が思っているような簡単な感情じゃない。

「それで、模様替え?俺と寝た布団捨てて?一からやり直そうって?」
「この間、光流が来て…。アイツと話して今の俺の感情とか見つめ直すきっかけになった。しばらく洸祈が此処に来なかったのも、俺に取っては頭を冷やす良い機会だったよ」

怖い、人の言葉が怖い。先ほど見た光流の腕の中の彼女の姿が脳裏に浮かぶ。いつだって、俺の欲しい物は光流の手元に――、

「やめろよ、今まで通りでいいよ、俺はなんとも思わない。快楽だけあれば良いじゃん。光流にばれてないんだろ?」
「良くない。今までみたいに戻れない事は分かってる、けど、この関係はもう…やめよう。以前を取り返したいなんて言わない。けど、もう悪化させたくない」

望んでないよ、そんな言葉。
もう遅いんだよ。

「光流を裏切ってるみたいだから?光流を思う気持ちを裏切ってるみたいだから?結局、光流だけだって、そう気付いたから?」
「洸祈、違う――」



「好きだよ、陽輔」



彼は、どんな顔をしているだろう、その表情は歪んでいるのだろうか。
聞きたくなかっただろうか。俺のこの気持ち。

「俺は陽輔がずっと好きだった。兄のようだ、親のようだと、それが錯覚だって言われても、俺は陽輔が好きなんだ」

錯覚でも、俺には陽輔しかいなかった。自分の気持ちくらい信じてあげたかった。

「だから、光流の代わりで…よかったんだ。陽輔の肌を感じるだけで、良いのに。幸せだよ」

俺の隣で、ベッドにうな垂れている陽輔の表情は伺えなかった。けれど、俺は陽輔に笑顔を送った。





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