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LALALA
16






それから俺の恋愛ごっこはそこそこ続いた。お互いにお互いを求めているようで、偽りだからだろうか、些細な事で喧嘩になる事もない。逆にベタベタとすることもない。友達に近い恋愛ごっこ。

「洸祈、彼女来てるぞ」

部屋を控えめにノックして、そう光流の声が届いた。

「…あぁ通して」

こうやって休みの日に家に尋ねてくることも多くなった。いつにもまして着飾って現れる彼女を見てもなんとも思わない。
光流に会う可能性が高いから、光流の目に留まるから?
そう尋ねることすら億劫だ。だって俺達は偽りだから。

「お邪魔しまーす。光流君がねちょっと出かけるからごゆっくり、だって。私が邪魔だったかなぁ?今日は外で会えば良かったね…」

女の子の華やかに笑う顔はやっぱり可愛い。そういった姿を見ていれば男として守ってやりたいとか、近くに居て見ていたいと思うものだろう。自分の所有だと回りにアピールだってするだろう。
迎え入れ扉を閉めながら、伸ばした手を彼女の髪に絡めた。日頃ストレートの髪は休みになるとアイロンで丁寧に巻かれる。そのカールに指を絡ませると、ぴょこんと跳ねた。

「今日も綺麗に巻いてんのな。女子って大変だよな」

光流に向く気持ちが欲しいとは思わない。
ちょっと前までずっと底にあった光流に向く陽輔の気持ちは欲しかったのに。
今はそんな自分の気持ちすらわからなくなってしまった。自分が求めるものが何なのか。この荒んだ気持ちがどうすれば静まるのか。

「―…き、洸祈?」
「あ、何」

覗きこむ瞳はいつもよりも睫毛がピンと伸びていた。

「すっごい暗い顔してるんだけど?」
「え、そう?ちょっと考え事してたから」

忘れないようにまた笑顔を貼り付けた。
俺はいつまでこんなことをし続けるんだろう。この女といつまで偽りの関係を続けるのだろう。
どこかで切らなきゃいけないけど、まだ、先でいい。
俺に飽きてくれるなら幸いだ。それを待つのもいいかもしれない。
あわよくばと考えている彼女の望みが叶ってもいいだろう。

学校帰りにレンタルしていたDVDを1本見終わったところで部屋を出た。冷蔵庫から飲み物を取り出して、誰も居ないリビングで溜息をつく。
両親も出ていて、自分と彼女だけしか居ない家。それでも独りになりたいと思ってしまう。このまま人間を嫌いになったりするんじゃないか、と一人笑った。

何をしてるんだろうと、こんな事をしていても何の特になるわけでもなくて、結局自分を苦しめるだけだ。
いっそのこと誰も自分を知らない環境に逃げ込むべきなんじゃないかって、そういったことを考え続けている。

こんな悩みを陽輔に打ち明けてみようか。昔のように。陽輔との関係に疲れていると、――そう言えば陽輔は俺を見てくれるだろうか。洸祈として見てくれるだろうか。何かいいアドバイスをしてくれるだろうか。

重い気分と、重い足を引き上げて、階段に足を掛けた。この階段を登りきる頃にはちゃんと笑えるようにしておかないと。

一段一段、片手にペットボトルを持って上がっていく。自分の気持ちを切り離しながら。

長く感じる階段を登った所で、自分の部屋のすぐ隣の扉が開いていることに気付いた。
リビングに居る間に光流が帰宅したんだろう、そう思った。

「光流?」

階段から近いところにある光流の部屋の扉をそっと開けようと手を掛けたと同時に、くるりとカールした毛先が視界に写る。

「…あっ」
「―――、」

自宅に来る時には、決まって綺麗に着飾って、いつもよりも細部にまでこだわって自分を磨いて、そうやって楽しそうにやってくる自分の彼女の目的を、分かっていた。だけど、

「それは…やりすぎ、だろ?」

光流の部屋に勝手に入るなんて、人間としてどうなんだ。好意があるからって許される事じゃない。

「ご…め、あの、トイレ探して―…」

見え見えの嘘。
俺の周りは嘘ばかりだ――。

すぐ後ろから階段を登ってくる足音とすぐに聞こえた光流の声。

「どうした、二人してこんなトコで…」






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