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LALALA
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 ―――hikaru

数えるほどしか訪れた事のない家のインターホンを鳴らした。こんな音だったか、なんて記憶を呼び起こしていると目の前の扉が開いて陽輔が顔を出した。

「光流…早かったな。どうぞ上がって、ちょっと狭いけどな」

招き入れられてすぐに見えたキッチンと、その奥に続く部屋。狭いというが物が少ないせいか一人暮らしにしては十分に広く感じた。
ここに来たのは陽輔が一人暮らしをしてすぐのころに、母親に頼まれたもの――田舎から送られた保存食を分けに来た一度だけだった。

「ごめん、急に」
「いや、久々に顔見れてちょうど良いよ。適当に座って。お茶くらいしかないけど、」

小さな冷蔵庫から取り出された2リットルのペットボトル。コップに注がれるお茶の音を聞きながら部屋を見渡した。
洸祈が此処で勉強を教えてもらっているんだ。そう考えてしまえば嫉妬と言う汚い感情があふれ出す。
昔から洸祈は何かあるといつも陽輔にばかり頼っていた。いつだって洸祈の拠り所は陽輔で、その位置が羨ましくて仕方なかった。何度陽輔になりたいと願っただろうか。陽輔の立場なら、と何度夢にまで見たことか。
なぜ、俺は頼りにしてくれないのだと…血を分けた兄は俺なのに。

「で、どうかしたのか?洸祈の事って言ってたよな」

目の前に、お茶の注がれたシンプルな硝子コップが二つ置かれた。

「あぁ…陽兄さ、洸祈から何か相談…受けたりしてない?相談じゃなくても、何か悩みとか聞いてないかな」
「悩み?…特には聞いてないなぁ。落ち込んだ風でもなかったし、いつもと変わりなく勉強して帰っていくけど」

あの洸祈の笑顔に陽輔も気付いてないようだった。きっと俺以外の人間は、親だって…気付かないんだろう。綺麗な笑顔に隠された、洸祈の本当。

「陽兄のところから帰る時間って今まで通りだよな?日によってだけど…凄く遅い日があるんだ。どこか洸祈が行く所知ってたりする?」

洸祈の笑顔に気付いたって、日頃の洸祈の行動なんて何も知らなかった。
ちょっと前までは聞けば答えてくれて、そこから会話らしいやり取りがあったのに…今は顔を合わせることが精一杯でそこにあるのは会話にもならない言葉で、洸祈は決まって返事しかしないのだ。

「――いや、俺は洸祈の私生活をあまり知らない、なぁ」

そうだろう、陽輔だって暇な人間じゃない。友達と遊んだりバイトしたり、その合間に洸祈の勉強をみているんだ。ただの幼なじみにそこまで感心もないだろう。

「洸祈は本当に何か悩んでるのか?光流の思い過ごしじゃないのか、ちょっと遊び疲れたりとかその範囲じゃないか?高校生なんて忙しいもんだろう、帰って寝るだけの日が続いてたっておかしくないよ」

そうだろうか。俺が知らないだけで、学校と言う枠から外れた場所が洸祈にとって居心地が良いのかもしれない。
双子だと言う事、俺の存在を知らない人間が居れば、そっちの方が洸祈にとっては呼吸しやすいのだろう。

また、自分の存在が疎ましく感じた。
キュッと膝の上で拳を作り、考えないようにと押さえ込むしか出来ない。どうしようもない事を考えたって仕方ないんだから…。

「光流、また洸祈のことばっかり考えてんだろ。あいつだっていつまでも子供じゃないし、自分で何とかするんじゃないか?あまりそうやって心配ばかりしてると洸祈も気を使うぞ」

そうだ、いつも俺が心配ばかりして、それが裏目にばかり出る。俺が動けば動くほど、洸祈を縛りつけ、苦しめて…

「陽兄…、俺」
「もう高校生だろ、兄弟でそんなに心配することなんてないだろ。そんなことより…光流、お前は?お前は苦しくないのか。いつも洸祈の事ばっかり考えて気を張って、お前だって少しは息抜きしろよ」
「―――、」

細く息を吐けば、肩の力が抜けるようだった。
気を張っていなくちゃ、知らない所で洸祈を傷つける。
洸祈を見ていなくちゃ、彼の変化を見逃してしまう。

じゃぁ、俺は――…

陽輔の言葉は俺の中へと染み込んでくる。深い、深い奥底に、陽輔の温かい手が入り込んで、沈んだ何かを引き上げるような感覚。
誰からも、差し伸べられなかった「手」

「今くらいはお前らしく居れば良いんじゃないの」

目頭が熱くなった。
ずっと、頼る事も出来ず、頼られる事もされず。学校や親や親戚の前で取り繕って。守りたい洸祈も守れずに、俺には何があるんだって―…、本当は思ってるのに。

弱音を吐く事さえ自分に許してこなかった。

「っ、陽兄…俺は、洸祈に何をしてやれる?俺はあいつを助けたい、のに…っ」

俺を頼って欲しいのに
俺のすぐ傍に居て欲しいのに

陽輔の掌が、俺の頭に乗っかった。温かい掌は堅い考えばかりを選択していたその思考を溶かすようだった。





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