LALALA | ナノ



LALALA
12






ポケットの中で携帯の震えを何度もやり過ごしていた。
きっとまた翔吾メールを送ってきているのだ。
このところ時間を見ては教室を抜け出して体育館裏にある階段の踊り場で時間を潰していた。
何も考えたくなくて、誰の声も言葉も聞きたくなくて。塞ぎこむといってしまえばそうなんだろうけど、このところ続いた事で傷ついた。
そのことを認めたくはないけれど、うまく笑えている気がしないから、こんな自分を誰にも見られたくなかった。

今までと何も変わらないことなんだ。ちょっと調子乗ってたのは俺だ。
友達ができて、陽輔を感じて、周りの視線を気にせずにいられたから、調子に乗っていた。そうだ、何も変わってない。

俺が一人で過ごしていると必ずどこに居るのかと言う翔吾からの確認のメールが届く。
今も数回鳴り続けたメールはきっと。
それらを無視して、遠くに聞こえる始業のチャイムと共にそっと目を閉じた。
何も感じない心が欲しいと思った。そうすれば光流と俺を比べる言葉や態度を気にすることなんてなかったから。光流を思う周りの言葉を羨ましいだなんて感じずに済んだから。

体温が少し上がり、緩やかに意識が遠のくのを心地よく感じて、少しでも長く現実を遮断してくれればと願った。





双子じゃなくたって、幼い頃の兄弟って言うのは常に一括りで考えられていると思う。だけど俺はそんな括りが苦手だった。
常に双子で全てがお揃い。そんな中で少しでも優先されるのは兄である光流、そしてそれによって俺を気遣う光流。
いつからか反応の薄くなった俺を世話するように動く光流はそんな姿も周りには好感を与えるだけだった。

苦痛だった。
だけど光流の事は嫌いになれない、俺の世界に無くてはならない片割れだから。光流よりもこんな自分の方が嫌で仕方ないのだから。

「双子なのに、光流くんはお兄ちゃんみたいね。しっかりしてて偉いわ」
「洸祈くんも見習ってがんばらなくちゃね」
「顔はそっくりなのに中身は全くの逆ってウケるよねー」
「光流くんと友達になりたいの、だから洸祈くんからなんとか紹介してくれないかな」

渦巻く言葉とそれを口にしてきた人たち。
暗い視界の中でも渦を巻いていて、俺をどんどんと飲み込んでいくようだった。
飲み込まれたとき、俺は消えてしまうのだろうか?この世界で光流だけが生き続ける――?
ぐるぐるとまわる薄暗い雲のようなものが自分を足元から飲み込んでいく。
自分の存在を笑う声が遠くから聞こえる。声が大きくなる前に、耳をふさぎ、それでも消えない声に、渦の中に沈む覚悟を決めなきゃならないのかと絶望が襲う。

「洸祈!」

ふわりと体が浮く感じと力強く届いた俺を呼ぶ声。
世界は明るく、視界を開ければ見慣れた顔がすぐ傍にあった。

「翔吾…、なんで、ここ」
「メールくらい返せよ、一言なら簡単な事だろ。探す方の身にもなれって」

苛立った翔吾の声が怖い。
小さいころの心細さがよみがえる。震えだしそうな手を握りしめた。

「……探すって、なんで。ほっててくれたらいいじゃん。どうせサボって寝てるだけ―」
「寝れてないのか?」

翔吾の顔が心配そうに覗き込み、腕が俺を支える。浮いた感じがあったのは翔吾が俺を抱え起こしているからだと今気付いた。

「寝てるし、何の心配だよ」

笑って翔吾の腕を払い落とした、つもりだった。ちょっとした力では払えないくらいしっかりと俺を支えたその腕。何、と問うよりも先に翔吾が口を開く。

「さっき、お前の片割れが教室に来てた。…洸祈の事探してたみたい。そんで寝てるお前はうなされてた。…何かあったんじゃねーの?」
「何も無い」

即答すると今度こそ力を込めて翔吾の腕を引き離した。

「変な事勘ぐってんじゃねーよ、」
「洸祈…」

まだ何か言いたそうな翔吾だったけど、翔吾には俺達の事だとか俺のこんな負の感情とか、あまり知らずに普通の友達で居て欲しかった。
ありがたいと頼ってしまう勇気がなかった。
俺にとって頼れる場所は陽輔だけだったから。
壊れてしまう関係はもういらない。壊れてしまうなら、そうなるまえにそっと包み込んで大切にしたい。唯一の友達を大切にしたい。






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