LALALA | ナノ



LALALA
09





 ―――hikaru

別に干渉しているわけじゃない。でも気になっているとかそんな問題でもない。あんな容姿をしていてもそれが本心じゃないって俺は判ってるから…だからこそ気になるのかもしれない。

いや、もっと根本的なものがあるのだけど―…。

柄の悪い友達が居るようでもなく、遊ぶと言ったってそこそこの時間には帰って来ていたんだ。陽輔の家に行っているなら尚更とっくに帰ってきている時間だった。

自室でテレビを眺めながら時計の針を追いかけていた。帰宅を待っているなんて言ったら、あいつは嫌がるだろうか。結局帰宅するのを待たずして風呂に行き、さっぱりしてまた自室に戻ろうと階段に足を掛けたところで玄関の扉が開いた。


「――お帰り。遅いね」
「…ただいま、光流」

いつもと変わらない笑顔を俺に向けてすぐにスニーカーを脱ぐその足元に視線を落とした。その表情はきっと…俺にしかわからないだろう。

「夕食が冷蔵庫に入ってるよ」
「あー、食べなきゃ母さん怒るかな?」

母親がいつも注意する、へらへらとした笑いを張り付けたまま、洸祈が三和土から上がってくる。

「どうかな、食べなきゃ食べないで明日弁当にでも入ってんじゃないか?」
「そっか、じゃあいいか」
「食べないの?」
「…ん、食べてきたんだ」

洸祈は何もなかったように嘘をつく。
その笑顔で人を騙せたとしても、俺だけは騙せないんだよ。洸祈。

「洸祈…」
「ごめん、ダルイから部屋行くわ」

もう保てなかったんだろう、その笑顔が。
こんなにも下手な笑顔はここ数年見たことがなかった。

笑顔で俺の横を通り過ぎる洸祈、思えばその時からだった。
この日を境に、洸祈の帰宅時間がまちまちになり始めた。遅く帰ってきた日は決まって自室に閉じこもってしまいなかなか出てこない。夕食を共にする機会は減り、取っておいた夕食は帰宅してから口にすることなんて無かった。

両親はそんな洸祈を問い詰めるわけでもなく、今までとの異変に少しは気付いていたのかもしれないが、反発するような洸祈の姿が悪化したんだろうと、それ以上の問題さえ起こらなければいいと、腫れ物を触るような態度だった。








洸祈のクラスを覗き込む俺に、視線が纏わりつくのを感じながらも、平常を装って洸祈の姿を探した。
いつもならこんな目立つような行動は極力避けていた。
自分が視線を受ける事が嫌なんじゃない、双子というただでさえ目立つ俺達に注がれる比較の視線は必ずといっていいほど洸祈を傷つけてきた。それは小さい頃からずっと、ずっと。
その度に感じる棘の存在は洸祈の感じるモノに比べればきっと痛みとも言えないものなのだろうけど…。


キョロキョロと視界をめぐらせる俺に目を留め、俺と認識した瞬間にスッと色が変わった。そしてこちらへ足を進めてくる奴がいた。
それは良いものじゃなくって、据わった目つき。
洸祈が今一番親しい男、名前だけは知っていた、石川翔吾だった。


「洸祈探してんの?」
「ああ」

確信を持った言葉。石川は肯定した俺を馬鹿にするように鼻で笑った。

「片割れなのに、家で会わないわけ?」
「…このところ忙しくて。洸祈も帰宅が遅くってすれ違ってんだ」

鼻につく物の言い方に、感情的にならないように言葉を紡いだ。今はこいつに構ってなんかいられない。
洸祈なら居ないよ、と石川は大きなため息をついた。

「最近の洸祈さ…一人でいたがるんだけど。心当たり、あるんじゃないの?」
「いや、心当たり…ないな。ありがとな、他を当たるよ」

礼を簡単に済ませて、未だ刺さる周りの視線から逃げるように、その場から離れた。
石川ですら、洸祈の異変に気付いているようだった。それくらい洸祈が何かしらダメージを受けているんじゃないかと思うと気が気じゃない。

笑えているならいい、と思っていた。
自分を取り繕う笑顔だとしても、それで洸祈が自分を保っていられたのだから、それでいいと。
その異変に気付くのは自分だけだから、何か変化があれば守ってやるって思い続けてきたのに。
なのにどうだ。俺はこんなところで何をしている。
何も守れていない、何も洸祈のことをわかってやれてない。


 


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