LALALA | ナノ



LALALA
08







「教師、が、こんなこと…っ」
「許されないって?」

その瞬間、先ほどまでの執拗なまさぐりがぴたりと止んだ。
体を離し、冷めた目で俺を見下ろす教師と、机に横たわり、火照った身体を弄ぶ俺との温度差が浮き彫りになる。

「その気になってるのはお前だけだろう?この事を訴えようったって、日頃の行いを見れば一目瞭然だ」
「―――、」
「それにそんな騒ぎを起こして、結局俺に何の罰も降りなかったとしよう。…現に、今お前を触りはしたけど性行為を行ったわけじゃない、お前が勝手に勃たせたんだ」

怒りと羞恥で顔に熱がたまる。下ろされたスラックスを引き上げることもできずに、俺は情けない姿で教師の言葉を受けるだけだった。

「それでも、俺に働いたことは強姦と変わらな―…」
「上野光流の立場が悪くなるだろうなぁ。お前に手を出した人間が居ると分かれば、性的な目的で上野光流に近寄ってくるヤツも出てくるかもしれないな」

なんて、低俗な教師なんだ。

「てめぇ…、人間として、最悪だ」
「ふん、なんとでも言え。証拠も何もないしな」

そして、そんなコイツに光流を重ねられた俺。
笑うしかないだろ。

扉の音がして、教師が準備室から出て行く気配がした。静まり返った部屋に、火照った身体を投げ出したまま、この熱が引いていくのを待つしかなかった。
悔しいのか、悲しいのか。
自分の感情さえも手繰り寄せる事が出来ない。

陽輔に、優しく抱きしめられたい、洸祈として抱きしめられたい。








陽輔の家の前、扉が開いて陽輔の匂いがして、やっと肩の力が抜けた。

「遅かったな」
「…ごめん」
「どうした、髪乱れてるけど」
「……うん」

陽輔に抱きしめられたい、ただそれだけで携帯を手にして、陽輔に連絡を入れた。いつもは陽輔に呼ばれて此処に来るのに、自分から陽輔に会いたいと意思を示したのはこんな関係になってから初めてのことだった。

「洸祈?」

陽輔に、名前を呼ばれるだけで安心する。俺は洸祈なんだって認識してもらってるって―…

「ようす、け…」

ただ、だきしめてほしいんだ、と続くはずの言葉は直ぐに陽輔によって飲み込まれた。ギシリとスプリングの音を鳴らしたベッドの上で。
ずいぶんと見慣れてしまったこの部屋の天井がいつものように俺を見下ろしていた。耳元に感じる陽輔の熱い吐息。

「やりにきたんだろ?」

悪気のない、乾いた陽輔の声に、また笑うしかないのか、とこっそり自嘲を洩らした。
ただ抱きしめてほしかった。何も聞かず、聞かなくていいから。ただただ。

揺れる視界だけが現実だった。
ただ抱きしめてほしかった。
抱きしめられることでそこに俺の体は確かにあるって、思いたかったのかもしれない。

何の音も聞こえない、誰の声も聞こえない。

何も聞きたくない―…が正しい。

手を伸ばしても、陽輔は抱きしめてはくれなかった。ただただ快楽を求めていた。
俺はただ、強く抱きしめてほしかったんだ。
それを言葉にはできなかった。






prevbacknext




[≪novel]

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -