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LALALA
07






放課後、陽輔の呼び出しがなかったことに安堵しつつも複雑な気持ちを抱きながら下駄箱に向かった。
体なしで陽輔と過ごすことを望んでいるのに、それを口に出すことが怖いんだ。
それならいらない、と言われそうで…。

「上野洸祈」

少し低めの声に呼ばれて振り向いた。

「今から帰宅だな。ちょっと準備室に寄ってくれ」

時間のある放課後を狙って声をかけてくるあたり、やっぱりこの社会科の先生だけは好きになれないな、と光で反射する眼鏡を睨みつけた。

「なんだ、その何か言いたげな目は。話があるのはこっちの方だっていうのに」
「何の話があるって?」

どうせ俺と光流とを比べ、いかに俺が愚図なのかをネチネチと口にしたいだけなんだ。こいつもその辺のヤツと変わらない光流贔屓の一人。

「あぁ、この間のテスト結果についてだ」

この間の?英語よりかはマシなはずなのに。どこかでコイツの癇に障るような間違いでもしたのか。
―…いや、ただ単に光流の存在で邪魔な俺をいびりたいのかもしれない。

「逃げるなよ、」

そんな一言を投げつけて、俺を社会科準備室へと促した。相手も俺を気に入らないように、俺だってこの教師が気に入らない。ギュッと握りこんだこぶしをポケットに突っ込んで後ろをついて歩いた。





 

「―…だろ」

良くもまぁ、一枚のテスト用紙だけでこれほどまでに嫌味が言えるものだと感心する。テストの答えがどうのこうのではなくて、結局言いたい所は授業態度について、って事らしいが。
これだけ色々言われると何が一番言いたい事なのかは全くこっちに伝わってこない。

日の暮れはじめた窓の外に視線を向けた。

「上野洸祈、少しは兄を見習ったらどうだ」

つまるところ、いいたい事はそれだ。そんなことで俺はもう傷つかないのに。無駄なことに力を使って楽しいのか、と逆に問いたい。

「ははっ、アンタも結局光流に…っ」

視線を戻そうとした所で、教師の手が俺の顎を捉える。
その瞬間、激しく脈打ち鳴り出した心臓が何かを訴えているようだった。動揺して考えがまとまらず、目が泳いでいるのが自分でわかる。

「折角の双子なのになぁ、きっとこの髪だって上野光流のように元は綺麗な漆黒なんだろう?」
「―――っ」

顎をつかまれたまま、教師が近くなる。後ずさった足元に、机の上に山済みになっていたプリントが落ち音を立てた。

「こんなに自分を虐めて」

体制を崩し、机に上半身を預ける形の俺の頭に、教師の指先が触れる。
傷んだ髪の間を指が這い、そっと梳く。嫌悪から全身が粟立った。

「っ、キモイんだよ、変態教師。光流に手を出せないからってこんなことして、寂しいヤツだな」

顎に掛かっていた手が喉を押さえつけて、そのまま机の上に身体を押し倒された。
喉にかかった手を引き離そうと教師の腕を握る。

「っ、ぐっ…っ」
「寂しい?…寂しいのはお前じゃないのか?兄の存在で霞んだお前が」
「はっ、馬鹿言ってんな。俺は俺だっ」

教師の貼り付けた笑みが気持ち悪い。

「どれくらいの人がそう見てくれてるんだか」

シャツを巻くり上げ、入り込んできた手に、恐怖と嫌悪が駆け上がる

「てめっ…!!」
「顔だけじゃなく…身体も兄とそっくりなのか?」

気持ち悪い。かさついたごつい手が、わき腹を伝い這い上がってきている。なんとか侵入を拒もうと体をよじるが体制が悪く意味を成さない。
それどころか喉を押さえ込んでいる手に力が加わると、その手を剥がす方に意識が行く。

「クソッ、変態がっ!!――…っぐっ!」
「ふん、それなりに知ってそうな反応を見せるのはなんなんだ?」

陽輔に教えられてしまったこの身体は、胸を這う指先に簡単に反応を示す。震えた体は隠しようがなかった
相手が喜ぶような反応を見せるのも、俺が陽輔に向けて作り上げた物だった。
こんなところで、こんなヤツのために、見せるもんなんかじゃない。
こんな姿、誰にも見せたくない。

「っ、離せ!」
「調子乗ってるからだ、お前みたいなのは痛い目見ておかないと将来ろくな人間にならないぞ」
「てめぇに言われたくねぇっ!」

教師の体がぐいっと足の間に割り込んで来ると、ますます体が近くなり、冷や汗が流れる。

「硬くしてるコレはどこの誰のだ?」
「―――く、ぅっあ」

割り込んだ体を使い、膨れ上がったそこの存在に触れられる。
陽輔じゃない、全くの別人だと分かっているのに、緩い理性は簡単に折れ曲がる。ベルトを外し、ずらされたスラックス。

自分の身体が、恨めしい。
こんな簡単に反応してしまう体と、抗う事の出来ない非力さに。

歯を食いしばり、漏れるうめき声に教師はうれしそうな視線を送ってくるだけだ。


助けて、陽輔―…、






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