低空飛行 | ナノ



低空飛行
笑顔の裏側






「ねぇ!」

「…無理だって、何度言われたって」

「何でダメなの?・・・こんなにずっと、思い続けてるのにっ!」


「…、」


「ねぇっ」


「…忘れらんねぇヤツがいる」




 なぁ、お前はどこに消えたんだ?











 人気者、というわけではなかったけど、こんなちょっと堅苦しい学校には似合わないような雰囲気を持っていて。そして、明るいヤツ。

 それが同じクラスになっての第一印象だった。

 いつだって勉強には必死だった。
 本人に一度聞いた事があったけど、無理してこの学校に入ったから必死で付いて行かなくちゃいけないって事らしい。

 笑った笑顔が可愛くて、人懐っこい印象を与えるそいつ。


 ある日俺は、いつものように、いつもの道のりを自転車で進んでいた。この街にある小さな川を渡り、バイト先へ向かう為。そしてその河川敷に自分と同じ制服を見つけて視線を向けた。

「―…白坂?」

 綺麗とはいえない河川敷で、茂った草むらに身を隠すかのようにそっと座って、流れる川を見ているようで、

 その瞳には何も写っていなかった

 声を掛けることも阻まれて、その時はそのままバイトへと向かった。そんな白坂の姿を、俺は頻繁に目にしていた。

 いつも明るくて、コロコロ笑う白坂の違った一面を見て、変に焦燥感が湧いた。その時の気持ちは未だに思い出せる。



「別れたいんだ」

「…何、言ってんの?」

「まんま」

「なんで?私のこと、好きになれそうって、そう言ってくれたでしょ!?」

「ごめん、ほんと」

「…好きな、人…出来たとか?」

「……好きとかは分からないけど、気になって、」

「じゃぁ、まだ私と居てよ」

「…そいつの事しか考えられなくて。誰かと付き合ってなんていられないんだ、それにお前にも悪い」


 ポロポロと流れる涙を見て、胸が痛んだ。もっと泣き喚いて罵られて、とされたほうがマシだったかもしれない。

 隣のクラスの彼女から告白を受けて、軽い気持ちで付き合った。好きじゃなくてもいい、特定の人が居ないならその間だけでも、と言う言葉に簡単に承諾した。軽い気持ちで付き合いはじめた。

 そして数ヶ月もしないうちに、白坂のあの姿を見てしまい、それが目に焼きついて、来る日も来る日も白坂の事ばかりを考えはじめていた。
 あんな瞳をさせている理由を。あの時の孤独という言葉がぴったりと当てはまる、そんな雰囲気を纏っていた理由が気になって。


 そんな気持ちを恋だと教えてくれたのは結局白坂だったけど。


 あの時の彼女は今、目の前で何度目かも分からない告白を俺にしている。

 別れてからも、ずっと俺の傍に居て。親しい友人と言う位置に落ち着いたのかと思えば、俺に想いをぶつけて。
 そんな彼女に、俺も気を許していた。別れたと信じないクラスメイトも山のように居た。
 その姿は付き合っている者と変わらないといわれ続けて。でも俺と彼女の気持ちは繋がっていなかった。

 あれから数年経った今も。


「まだ…忘れられないんだ、ね」

「あぁ」

「そんなに言うならコクってよ、そして振られて私の元に来て」

 女はいつだって強い。


 それに比べて、お前は?

 ちゃんと、強く、生きているのか。


「付き合ってた…」

「え?」

「でも、俺から好きって言ってなかった。大切に、しすぎたのかもな」

「何で別れたの」

「別れた、のか…。アイツは消えたんだよ、俺の前から」

 コロコロ笑う、あの笑顔で。

 明日にもまた会えそうな事言いながら。

 また来ると言ったきり、白坂は姿を現さなかったし、あの時思い合っていると信じきっていた俺は、白坂が何も言わずに消える事なんて想像すらしなかった。


 後悔するならば、

 あの時意地でも引き止めるか、自分の身を犠牲にしてでも白坂との道を選んで家を出る事が出来なかった、自分に。

 そして若すぎた俺たちの時間に。





080724



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