低空飛行 | ナノ



低空飛行
18






「すごい、空港近いから飛行機が大きいな」

 小さく鼻をすする俺の横で空を見上げる米田。数年前と同じような空気を漂わせる彼を見て、またあの頃に戻れるんじゃないかと勘違いしそうになる。

「なぁ白坂。今何してるんだ?…お前の事、知りたいんだ」

 知りたい?俺のことを?

 知った所で…どうにもならない。米田が興醒めするだけの現実しかそこにはないのに。

「白坂、」

 米田の家を出てからの事を話そうにも思い返したところで良い思い出なんてなくて、唯一富田さんに救ってもらった事だけが救いだろうか。


「何もない、もう。それでも知りたいって思うのか」

「…知りたいよ、一人暮らし?それともどこかに身を寄せてるのか?仕事は?今日は休みだった?…」

 黙って聞いていればいくらでも連なって出てきそうな質問の数々に視線を落とし小さく笑った。

「ボロいアパートで一人で暮らしてた、よ」

 すっと指を差し、その先にはいつ取り壊されてもおかしくないようなアパートの姿。もう戻ることもないだろうけど。

「え、あそこ?」

「うん」

 人が住んでいるかも疑わしい建物に米田はビックリしただろうか。

「こんな目の前にあったんなら公園で話しなくても良かったな。ちゃんと最初に聞けばよかった…、なぁ、お邪魔してもいい?」

「え?何にもないよコーヒーの一つもろくに出せない家なんだ。俺だって寝るだけに帰ってたようなもので…」

 すっと立ち上がった米田の手には俺の腕が掴まれていて、慌てて視線を上げた。

「米田ッ」

「知りたいんだ、」

 何を――、あそこにはもう何もない。薄暗く物さえたいしてないのに、何を知りたい?何を見たいというんだ。米田が見る俺の現実はきっと気持のいいものなんかじゃない。むしろあの家の空気は俺の重たく澱んだものでしかないだろう。

「俺の知らない間の白坂を知りたいんだ」

 俺の腕を引っ張り上げる米田の背後には澄んだ空が広がっていた。  


 あぁ、そうか。


「――わかった。行こう俺の家」

 引かれていた手を逆に引き、公園に自転車を残したままアパートに向かった。先ほどまで躊躇っていた俺とは打って変わって先を急ぐ姿に、今度は米田が戸惑っているようだった。

 見ればいい、全て。何もない俺の生活を。

 そして米田はなんて俺に声かけるかな、哀れみ?驚き?この際何でもいい。俺は最後のその時をを米田と過ごせるだけで満足だと思えるから。

 見つけてくれてありがとう、そして最後もお前に見つけて欲しい。俺の姿、見つけて欲しい。

 だから、見てて。





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