鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
04
馬鹿じゃないのかって――。
まぁ、馬鹿だろう。
鹿本との関係がなんだか分かってないのに、そこそこの回数、体を重ねて。
こんなのもアリなのかって思ったのも確かで、でも何かって答えを求めるのも怖かったんだろうな。
そして、腕折ってまでして取りたい女が鹿本に居るって分かると、やっぱり明確な答えは要らなかったって後悔してる。
鹿本と会話したいと思ってただけなのに、あの非常階段で鹿本のツレと会話した事で中身が変わってしまっていた。
他愛もないクラスメイトの話をして、体調を崩して休んでからの俺を、それ以前の元通りの俺に戻そうとしたのかもしれない。
鹿本のことだから、何もなかったように平然と俺の気持ちを切り替える一言をくれると思ってたんだ。それだけだったのに、こんな事を確認して、あの日に戻るどころかもうどうしようもない方へ向いてしまった。
「聞いてるのか、住田」
鹿本の右手が伸びてきた。
「っ、か、鹿本!?」
俺の左腕を掴んで引き寄せると、簡単にバランスを崩して鹿本に倒れこんだ。
体勢を整えようと、体を起こそうとしたとき、自分の背中に回された硬い物に気付いて身動きが取れなくなった。
鹿本のギブスに包まれた左手が背中に回されていたからだ。
「…鹿本?」
「動くなよ、骨に響くし」
傍から見ると、抱き合ってるようにしか見えないんじゃないか、と思うと居たたまれない。俺の視線は自分が手を着いた屋上の地面と、鹿本が背中を預けているコンクリートの壁を行ったり来たりして、鹿本の表情なんて何一つ分からない。
「左手、駄目だろ・・・なにやって」
「お前がめんどくせぇくらい馬鹿だからこうなってんだろうが」
何がだよ。俺は全く鹿本の考えを理解できてないよ。
なんで今こんな体勢なんだ。
「分かるだろ」
分からない。分からないから何も答えられない。今の俺の気がかりは背中にある鹿本の左手だ。
「分からないよ、鹿本…。頼むから手離せよ。腕、治り遅くなったら困るだろ?」
「……ヒントやるわ」
鹿本の折れた左腕が、力強く俺を抱きしめる。
痛くないわけないだろう、その腕の存在にこっちが緊張から、体が強張った。
「鹿本、手、やばいって。離せ…離せってば、」
鹿本の肩に顔を埋めるような形になって、何度も鹿本に抵抗を口にする。口にすればするほど鹿本の力が強くなって、痛みを想像してなのか、なぜか…涙が出そうだった。
鹿本の香りが鼻腔いっぱいに広がる。
「ヒントだ。・・・俺がやったのは、お前の仇討ちだ」
―――、俺!?仇討ち!?
ヒントがそれって…
俺がアイツにやられた事に対する……、
「…え」
「ホント、お前バカ」
「え、女は?女を寝取ったとか言ってたじゃないか」
「アイツはその恨みをお前で晴らしたんだろうよ。けど、俺は終わった話だったからな」
鹿本が大きな溜息をついた。
それでも俺は離してもらえなくて、色々とその仇討ちについて考えるんだけど、どう考えても腕折ったり、入院するまでってのはやりすぎなワケで。
あまり現実味が無かった。
「あいつ等はもう、お前に近づかねぇよ」
明確じゃないのに、何かが体を、脳を、突き抜けた。
鹿本の言いたい事が何か分かるような気がして、俺は言葉を失った。
その沈黙が、自分が何かを見つけ出そうとしているようで、手探りで…けど、どうやら鹿本にはそんな時間も苛立ちだったようだ。
つまりは、そういうこと。
俺にはその腕一つ折ったくらいの価値が、鹿本の中にあるって事…だよな?
どうやら鹿本から答えはもらえそうに無いから、この体勢とか、そういうのをひっくるめて俺は自分の考えにうぬぼれる事にしよう。
「分かったか」
うん、と答える代りに。鹿本が俺を押さえつける力に勝てるくらいの力で鹿本を抱きしめ返し、肩口に顔を擦り付けるようにして埋めた。
できるだけ、自分の気持ちが伝わるように。
これで分からないって言われたら、今度は俺が鹿本を馬鹿だと罵ってやる。
鹿本の左腕が離れても、俺は人の目がないことを良いとして、しばらく鹿本にしがみついていた。
END
(「鹿本くんと住田くん」完結)
11.02.13
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