鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
02






ガタガタと、下駄箱を鳴らし、その声のする方へと駆け出していた。
上履きが片方、前に飛んだ。

「ちょ、ちょ、…あの、鹿本、鹿本入院って?」

突然一本筋の違う下駄箱から飛び出してきた俺に鹿本のツレ三人は驚いて後ずさった。
その姿を見て恥じらいもあったけど、出てしまった物は仕方がない。
そんなことよりも。

「なぁ、鹿本は――」

「あぁ、お前が住田だ」
「そうそう、コイツが住田」

三人のうち、一人は俺の事を知らないようだった。

「あれだよ、このあいだ鹿本が休んでる理由ててっきりお前が知ってんじゃないかと思ってクラスに行ったんだわ」
「う、うん。訊いた。西垣から…」
「あ、そう」

でもがっちゃんも鹿本が入院してるなんて事は知らなかったし、いや、クラスの誰一人として知らないはず…。担任はさすがに知ってるだろうけど。

「で、鹿本が入院って、ホント?」
「ん?もう退院してるけどなぁ」

親切に俺の言葉に返事してくれるのはオレンジ頭の奴だけで、残りの二人は俺には興味ない感じで何か他の事を喋ってる。
三人とも足は止まらずに先へ進んで、俺は必死に食いつこうと思ったんだけど、さすがに上履きが片方飛んだままで外にまでは出れなかった。
そいつ等との会話は此処で終わり。

鹿本が入院してたのは確かなようだ。
けれど、何で?何故?何があった?


結局、そのあとは鹿本に電話を掛けてみようかという気持ちになったのだけど、一日携帯とにらめっこして終わった。
気になる、気になるけど…あのツレ達が普通にしてたのだから大丈夫だろう。
学校にもまた来るだろうし、チャンスを見て聞いてもいいだろう。

まぁ、自分が鹿本を目の前にしてそんな気分になるかは分からないけど。







鹿本が入院していたんだって。
なんかボコボコにされたらしいって?
やられっぱなしじゃ無くって、相手もボコボコだったらしいよ。
どうやら仲間割れとか言ってんじゃん。


―――学校に復帰した鹿本は好奇の目にさらされていた。
額には大きめのカットバン。口元にも小さいのが貼られていて、左腕は本当に骨折してた。ただ、邪魔くさいのか、目立ちたくないのか、三角巾で吊られては居なかった。
袖が通らないからだろう、ブレザーは羽織らずにゆったりとしたカーディガンを来て学校へ来ていた。袖から出ている手には白いギブスが見えている。

鹿本が教室から居なくなると、みんな鹿本のことを口にした。
一日経って、どこから情報を得たのか、相手は分からないものの大体の話は分かってきた。

鹿本はそれなりに仲良くやってた人とやりあったらしい。
お互いボコボコになって何とか話はついたらしい。
鹿本はある程度見た目も快復するまでの一週間、入院していたそうだ。

復帰した鹿本は大人しく授業を受けているのだけど、休みに入るとどこかへ行ってしまう。だから、俺ともなかなか顔をあわせないし、俺も鹿本を追いかけてまで何を訊くわけでもない。

鹿本が復帰して四日目の昼休み、思い立って鹿本に声を掛けることにした。チャイムが鳴ってすぐに席を外した鹿本を数分遅れで追いかける。

どこに行ったかなんて見当つかないけど……。
とりあえず俺の中で“鹿本なら此処でサボるであろう”候補、この時間帯に日当たりが良い非常階段だ。

数十メートル先に見えるのはオレンジ色の頭。
頭数を数えてもどうやら鹿本は居ないらしい。
せっかく意を決めて来たのに鹿本が居ないなんて……。

「あっ、あそこに見えるのは住田だ」
「そうだな。住田だな」

「えっ?どこ」

人通りの少ない場所だから、すぐに自分の姿は認識されてしまった。

「え、いやー、あの、」

どうしようか、鹿本がどこに居るかこいつらなら知ってるかな?ツレだから知らなくても検討は付くだろうし…

「なんだぁ〜鹿本クンの怪我の真相が知りたいとか言うんじゃないだろうな」
「みんな好き勝手ウワサしてんな〜!あれ、おっもしれぇの」

金髪頭の奴とメッシュが入った奴はなんだかんだと盛り上がり始めて、俺の相手をしてくれるのはやっぱりというか、結局オレンジ頭の奴だった。


「うーん、俺らも詳しく知らねぇんだわ。竜也がなんであんなことなってんだか。」
「そ…そうなんだ…」
「でもまぁ。多分だけど、竜也が寝ちまった女の男と一悶着あったみてぇよ?」

ふんふん、きっとその事で相手の男に骨折られたんだな。
なんて馬鹿なんだ鹿本。寄るもの拒まず性別選ばずで手出してるから罰があたったんだろう。

「そういや――。住田って何気に竜也と仲良いんだって?」
「えっ」

“仲が良い”記憶はない。

「なら、知ってんじゃねぇの?和志ってやつ」

耳の奥で、声が響いた。
そして引きずられるように出てくる記憶は自分が忘れられない、最近の記憶――。

――ハルちゃん、悪く思うなよ。竜也の傍に居たことを恨むんだな

助けて貰えない、と絶望した時の自分。
相手の複雑そうな表情…。

「……あ、」
「あ?やっぱり知ってる?会ったこととかあるか?なんかあいつも絡んでるらしいぜ。あいつは竜也がやり合うのを見てただけらしいけど。そんで後処理つーの?病院連れてったりも和志ってウワサ」

「う、ウワサ…」

「あぁ、まぁ学校でされてるウワサじゃなくって、こっち側のウワサだ。相手も結構ボコボコだったらしいしな、久々に竜也キレちゃったのかもねー」

胸がざわついた。
俺は何にも知らないけど、きっとヤリ合った相手はアイツだ、あの下品な白に近い金髪野郎…。

「竜也なら、屋上にいると思うけど?」

何かを分かったかのように、俺が口を開く前に鹿本の場所を教えてくれたオレンジ頭。
きっと凄く勘が良くて、感性も良いんだろうな。

「ありがとう」

上手くその言葉に感情を乗せれなかった。
けど、今は一刻も早く屋上に向かいたくて、その場から駆け出した。





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