鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
05






鹿本は煙草をふかしながら、ベットにじっと座っていた。

和志にしがみついていたように、鹿本に手を伸ばす。

振り払われる事なんて、一瞬も考えなかった。
どうしようもなく、鹿本の匂いが俺を誘うんだ。

だって、これは欲望で――。

快楽を求める俺は、ただその匂いを追いかけていた。


「っ、」

未だ俺の中に居る男が少しずつ大きく、硬くなり、近い終わり感じさせた。

俺はひたすら鹿本を見ていた。
視界には鹿本だけ、そうすれば知らない奴にやられている悔しさが憤りが少し軽くなるようだったから。
ジワジワとまた、腰の辺りが熱くなる。

今の俺なら、鹿本に触れて欲しいと口にすることが出来そうだ。
薬のせいだと、そう言って。

しがみついていた鹿本の下半身に、熱を見つけたとき。
自分の中でどうにも言いがたい感情があふれ出した。

わざと、鹿本を煽るように見つめ、縋るように偶然を装いながらも鹿本の体をまさぐる自分がいた。
そんな自分に嫌悪を抱きながらも、なんとか鹿本を自分に向けさせたくて―――、いや、鹿本の視線はずっと俺だけを捕らえているのだけど、鹿本を俺でその気にさせることに躍起になっていた。

けれど、鹿本の表情は変わらない。
いくら下半身に熱を持っていたって、鹿本の本当の心は全く俺に届いてこない。

「く、ぅ…っ、か、も――っ!」


なんで、お前はそんなに普通で居られるんだ。
お前のせいで、俺は…!

強く緊張を保っていた糸が、プツリと切れるみたいに

俺は鹿本に、涙を零した。

気持ちよりも先に涙の方から溢れ出す。
朦朧とした意識の中、俺はただ、鹿本にだけ訴えていた。


男が果てた事に気付いたのはずいぶん後になってからだった。
ゴムをつけた男は俺の中で一通りの快楽を楽しんで、萎んだソレを抜き出した。
男が支えていた手を離せば、俺はパタリとベッドの足元に転がった。自分が興奮状態にあることも分かっていなかったし、何より腰に力が入らず、動く事すら億劫だった。


「ソレは鹿本に処理してもらえよ」

男が指すのは俺の下半身。
達する事も出来ず、けれどパンパンに膨れ上がったソレは俺の意思とは関係ない。

今、全てを遮断したい。

男がどうとか、和志って奴が耳フェチだろうがどうでもいい。俺を独りにして欲しい。誰にも触れられたくない、熱なんて、要らない。


「…か……と、くるし…」

気管が狭まったように、呼吸が苦しい。

男が鹿本に嫌味な笑いを向けて去っていく。しばらくして玄関扉の音が響いた。


鹿本はまた深く煙草を吸い、傍にあった灰皿に煙草を押し付けた。



「…ソレはなんだよ。何の涙だ?」


鹿本が転がっている俺を見下ろす。初めて鹿本と会話を交わした頃よりも、少し伸びた髪の毛が光を受けて零れ落ちた。

「男に薬使われて、ヤられて、悔しいからか?」

俺はやっと鹿本から視線を外して、そのキラキラと光る髪の毛に視線を送った。
光る髪が水の力で、ゆったりとぼやけ、光が増した。


「てめぇの身だろ。もっと相手を疑ったりしねぇからこんな事になるんだよ。自業自得だ」


表情一つ変えない鹿本は、どこまでも残酷だと思った。





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