鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
04






何見てんだよ!
これ見てなんで声かけないんだよ!

「助けろよっ!!」

腹立たしさや、恥ずかしさで、叫ぶように出した声は裏返った。

鹿本はゆっくりとした動きで煙草の火を灰皿でもみ消しただけだった。

「あらぁ、竜也くん帰宅?いつの間に」
「ついさっき。勝手に人ん家上がりこむとか、いいシュミしてるね、お二人さん。そんで盛り上がり中?」
「ハルちゃんガードが固くてね、なかなかよ。あと少しってトコだったのに」

鹿本の視線が一瞬だけ俺を掠めた。

「お邪魔したわけだ、ってかここホテルじゃねーから。二人とも外でやってくんない?」
「ハルちゃん食っちゃっても良いわけだ?あんま放し飼いしとくと後悔するぜ?」

「――どういう事だ」

圧し掛かっていた体重が無くなる。
男は立ち上がると、少し乱れた服を直しながら鹿本の前に立ちはだかった。

「そういうことよ。竜也がアイツの女に手ぇ出すから」
「で、お前が俺の周りを嗅ぎまわって?パシリかよ」
「まぁハルちゃん目当ても半分含まれてますがね。あの耳を味見しとかなきゃ後悔することになりそうでね」

クツクツと笑うその声も、今の俺には不快でしかない。
慌てて開放された手で嘗め回された耳を擦り、袖で湿り気を拭い取った。

「つうか、あんなしょうもないヤツに手出すからめんどくさい事なってんだろ。あの女お前に抱かれた事鼻に掛けてんぞ」
「向こうから足開いたんだ」
「だからって抱くかよ」
「お前も目の前に耳があったらむしゃぶりつくんだろ」
「それを言われちゃ…でもまぁ俺はフェチだからさぁ」
「言い訳になんのかそれ」

「まぁよ、そういうことでお前にお呼びかかってんのよ。また顔出せよ」
「あぁ、そのうちな」
「んじゃ、俺の用件は終わり。ハルちゃんここまでの案内サンキュ」

それだけの事を伝える為に、俺はこんな目にあったのか!?メール一本で済む事じゃないのか…!

男があっさりと出て行くと、鹿本はゆっくり振り向いた。


「なにやってんだ」

呆れた溜息交じりの声は、いつもよりも柔らかく聞こえた。

「…鹿本の家、教えてくれって…言われて」
「だからって部屋にまで引っ張り込まれてんなよ」
「鍵、なんで開けっ放しなんだよ。閉まってたらこんな事には…」
「下の店舗にいたんだよ。二階から一階に降りただけで鍵なんて閉めてられるか」

今は使われていない店舗は廊下の奥から1階にも降りれるようになっている。
鍵の掛かった扉が部屋にあることに疑問を持って、尋ねた事があったのだ。

「物音が聞こえたから誰が来たかと思えばこれだよ」
「じゃぁ最初っから見…」
「見てたけど?こんな風に襲われたトコから」

そして鹿本は同じように俺の腕を掴むと、耳に顔を寄せてきた。

「よせよっ!離せ」
「アイツは俺が見てるのしっかり気付いてたけどな。お前どれだけ鈍感なんだよ」
「――アッ」

そしてこれまた同じようにベロリ、と鹿本の舌が耳を撫でる。熱い唇が、首筋を這ったかと思うと、水音と共に耳朶を含まれ、ゾクゾクと体が震えた。

膝の頭でなで上げられたそこは、たったこれだけの事で少しふくらみを増していた。恥ずかしさに体温が上がる。自分の身体なのに、全く意思が通用しなかった。

「鈍感なくせに、敏感なんだよな」

身体を浮かせ、鹿本が俺を見下ろしていた。
面白そうに笑うそれは、何度も見た事のある笑顔だ。
意地悪な、笑顔。

それが、ピタリと止まった。
怒ってるようでもなく、無表情とも言いがたい、何かを考えているのか…。
そして吐き出された言葉は静かに漂う。

「さっきみたいに抵抗しようと思えば出来んだろ。なんで、しない?」

理解しようとしない頭がもどかしかった。

「なんで」と訊かれてもその答えが導かれない。
いや…頭が導くのを拒否するように、そして俺は鹿本の腕を叩き、身体を押しのけて鹿本の懐から飛び出しすと、一目散に玄関に向かった。

無造作に靴を履き、勢いよく外へ出る。



『――俺だからか』

後から聞こえたその言葉。
その答えを出す事が怖かった。

聞こえなかった事にしてしまいたかった。






END



10.01.24



prevbacknext




[≪novel]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -