鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
03






「やつぱ、ハルちゃんっていい耳してるねぇ」

先ほどから彼の視線は俺の耳をジリジリ攻め立てている。居心地悪い事この上ない。
それにしても、耳って!初めて見たよ…こんな人。

「耳なんて…あんまり人の見たことないですけど」
「そう?でもセックスするときとかさ、耳元でささやき掛けたりしないの?舐めたりして攻めるだろ。そう考えたら耳は女性で言うオッパイであったり男性で言うペニスと変わんないわけよ。分かる?この考え」

「は、はぁ…」

「俺からしたらみんなそんな耳を曝け出してるわけだから、もう生唾もんだよね」

な、生唾…って事は俺も今この人に体の大事な一部を見せている訳か!?
はっとして、俺は耳を思わず隠した。

「なんで隠すんだよ」
「いや、その…なんだか大事な部分のような気になってきて」
「そんなこの場で犯すわけじゃあるまいし隠さず楽しましてくれよ」

そ、それがっ嫌なんじゃないか!
耳を見せろ、見せたくない、とやりあってるうちに鹿本の家が見えてきた。

「これですっ」

振り切り、目の前の家を指差す。2階に上がる階段を見て、その人は怪しんだ。

「へ?此処に住んでんの。マジで?」
「なんか、おじさんの店舗らしく空いてるならって使ってるみたいで…」
「ふぅん。なるほどね…じゃぁ、上がろっか」

と、俺の背中を押して一段目を上がろうとする。

「ちょ、俺帰ります…ちゃんと鹿本の家教えたし」
「本当に竜也が住んでるか確かめたら開放してやるからさ。これで違ったとき途方にくれるだろ、俺」
「間違いないですって!」

と言いながらも、俺の足は階段を登っていった。鹿本が居ればすぐに帰らせてもらえるのだし。

が、そこに鹿本は居なかった。
なのに家の鍵は開きっぱなしだった。

「物騒だなぁ、まぁありがたく中で待たせてもらうか」

そういう彼の目はまだ俺を帰してくれなさそうだった。
多分、鹿本の姿を見るまでは納得しないという事だろう。

仕方なく、靴を脱いで部屋に上がると、鹿本の知り合いらしい人は、我が物顔で部屋の中心に腰を下ろしてくつろぎ始めた。

「なぁハルちゃん、竜也のクラスメイト?雰囲気違うけどどうやって友達になったわけ」

「――…。友達、なのかな…きっかけはこの家の前でしたけど、その時鹿本は俺をクラスメイトって認識してなかったっぽいし」
「でもこの前のパーティ呼ばれたんだろ」
「あれはたまたま…成り行きと言うか色々あって」
「ふぅん」

納得いかなさそうな返事だった。
けれど俺にもよくわからなくって、それをまた考えると悩み始めてしまうのだ。

そんな中、彼の視線がまた俺の耳に注がれてるのに気付いて慌てて手で隠した。

「誰も見てねぇし、ある意味個室だし、目の前においしそうな耳があるって絶好のチャンスだと思わねぇ?」

全く思わない!思わないけれど、このひとは俺と感覚が違うのだ。
耳を隠していた手を取られた瞬間、全身で「ヤバイ」と認識した。

このままではヤバイ。

「や、やめましょ?ほら、鹿本帰ってくるし、鍵開いてたって事はすぐに帰ってくるって―――っっ!」

ベロリ、とまさしくそんな音が左耳の鼓膜に響いた。両腕は抑えられてピクリとも動きそうに無い。むしろ抵抗を見せると力を込められて、痛みが走る。

「誰も食おうなんて思ってないからさ、耳だけ。な?」
「食…当たり前だろッ!ってか耳もなし!なしなし!」
「竜也には食われてんだろうが。アイツがハルちゃん見たいなのただ傍に置くわけねぇからな」

低い声は耳から入り込んで、脳の真ん中で木霊すようだった。生温い息と、這いずる舌とにゾワゾワと背中がむずがゆい。

「嫌だっ!」

気持ち悪い。
知らない体温と、自分が記憶にないだけで初めて会ったと言える人間の唾液はただの不快だ。

「んっ、っ」

強弱をつけて甘噛みされて、優しくなで上げるように舐められる。興奮した男の息は本気でハァハァ言ってんだからこのままでは済まないんじゃないかと不安が湧きあがった。
力が抜けるたびに、また自分を奮い立たせて抵抗する。

床に押し倒されたような体勢から、再度腕に力を入れて男を跳ね除けようとする。
圧し掛かった男の身体はなかなか退けることが出来ないが、出来た隙間にすかさず足を折り入れ、そのまま足の屈伸を使って相手の腹に足を当て、搾り出すように力を込めて撥ね退けた。

「ぐっ、」

きっと腕をつかまれていなければ吹っ飛んでいただろうに、二人して横に転がっただけだった。

完璧に相手が離れたわけではなかったけれど、崩れた体制はチャンスだった。上手く行けば逃げれそうだ、と身体を捻らせた時だった。

部屋の入り口に、のんびりと煙草をふかしてこっちを傍観している鹿本が立っていた。





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