鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
02






黒の革のジャケットにジャラジャラした装飾品の数々。ブーツは軽く蹴られれば骨にまできてしまいそうなくらいにずっしりとして重く見える。そしてアッシュグリーンの髪の毛。
とってもハイセンスにまとめられているが、自分とは本当に別世界で、声を掛けられるなんて道を聞かれるかその程度のものに違いない、けれど。

「は、い?」
「ハルちゃんじゃねぇの?…勘違いか」

確かに名前に「ハル」が付くけどちゃん付けされるほどの相手なのだろうか?俺には全く見覚えが無い。
ハルはハルでもハル違いだろう。

「や、いや、間違いじゃない。その耳は間違いなくハルちゃんじゃん。なんだよ、つれねぇ」
「み、耳!?な、なんですかそれッ」
「俺耳フェチなの。ハルちゃんの耳、ちゃんとインプットされてるから」

ニヤニヤと笑う笑顔に何かしら恐怖を感じずには居られなかった。

「どこかで、会った事ありましたっけ…」
「あれ。忘れた?ってか覚えてないか、さすがに」

過去思い返してみても、こんなに印象的な人間の知り合いなど居ない。もしかして幼少の頃の知り合いなのか。

「結構飲んでたもんね、あん時」
「結構のん……っ!?」

ん?んん!?
俺が人前で飲むなんて事はありえなくて、でも一回だけ…鹿本に誘われた合コンで…

「え、ミツ…さん?いや髪長かったし、顔も違う気が…」

あの時車を運転していたミツさんに比べると体つきが大きいのだ。ミツさんは細くってこのひとに比べるともう少し柔らかい印象だったはず。

「そうそう、思い出した?俺はミツじゃねーけど、あの場に居たんだって。ほら、ハルちゃん女と飲んでただろ?あのテーブルに一瞬だけど居たんだけど」
「えっと…」

あの時は記憶がところどころ霞んでいるのと、入れ替わり立ち代りに顔を合わせた人は沢山居た。
そのうちの一人だと言われても、印象に無い。今目の前にしているとどこに居ても目立つ姿だが、あの中では皆が皆こんな感じだったのだから…。

「覚えてくれてねぇのぉ〜!?…まぁいいや。それより、このガッコで間違いないんだよな、竜也は?」
「へっ?」
「鹿本竜也。合コンにハルちゃん連れてきたの竜也だし、友達なんだろ?竜也呼び出して来てくれよ」

「え…っと、もう放課後だし、鹿本は確か昼から居なかったような気がする…」

俺の記憶が確かなら、だ。
鹿本は神出鬼没、まではいかないが、昼から消えたのが今日の事なのか昨日のことなのか、思い出さなくちゃいけない。
英語教師が教室に来て一番に鹿本がいないと嘆いていたような気もする。って事は昼からはいなかったと言うことだろう。

「えぇぇぇ〜マジで言ってんの?」
「そう言われても…」
「じゃぁいいや、竜也ん家連れて行ってよ。俺知らないんだよねー」

厄介な事に巻き込まれた感じがものすごくする、と思った瞬間にはもう俺の腕を取って道を進んでいく。

「あっ、ちょ、そっち逆ですっ!」
「あぁ?早く言えよ、ってか早く連れてけって」

ぐいぐい引っ張る力に抗えず、俺は腹を決めてこの人を鹿本の家に届ける事にした。
帰路を少し遠回りする程度だから、人助けだと思って…と言い聞かせて。





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