鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
03
「…っ、……!」
息をすることさえ困難な住田が、溺れれば良いと思った。俺のこの口でお前が溺れるのならと。
弱まる抵抗に、俺はやっと住田の唇を開放した。
熱を持った表情を見て、このまま勢いで押し倒してやろうかとさえ思える。面白半分で抱いたあの時よりも、今ならもっと住田を楽しませてやるのに。
「屋上じゃなければな…、」
「か、もと…」
「もの欲しそうな顔してる」
「――っ!」
図星だったのか、どうなのか。
みるみる赤くなる顔がまた面白くって次の言葉を吐こうとした。
潤んだ瞳は熱のせいだと思っていた。
見る見るうちに目に収まらないほどの水分が溢れてきて、それは静かに零れ落ちた。
――分からない。
俺には住田の考えが分からない、その涙が何なのか分からず、ただ頬を伝う水が一瞬だけ綺麗だと思えた。
「住田?」
名前を呼ぶと、静かに瞳が細められたが、依然俺を捉えたまま閉じられはしなかった。
強い意志を持った住田の瞳は綺麗だった。
そんな視線は初めてで、少し意外だった。多分、住田がキレてるって事かな、なんてぼんやり考えて。
「抵抗、しないならまた頂くけど?」
きっと俺じゃなかったら、俺よりタチの悪いヤツに捕まったら、住田は生きてるのも辛いくらいボロボロになるだろう。
俺が顔を寄せると、また一筋こぼれた。
「なんで泣いてんの」
「わかんない…。っ、く、やしい」
「悔しい?」
抵抗する暇なくやられて、か?
「悔しいし、くる、し」
溺れれば良いとは思ったが、それほど苦痛を味あわせたいわけじゃない。ちゃんと見計らって唇も離したはずだ。何より鼻で息できるだろうが。
「鹿本は…、お前は、そんなに俺が嫌いなの?俺っ、なんか、した?」
違う、だろ。
嫌ってなんか無いことだけは確かだ。
虐めたいって気持ちは湧くけど、それは何か違って…。
「…なんで俺、虐められてんの?」
潤んだ瞳が訴えてくる。
しばし絡んだ視線は、住田が俯くと共に外れた。静かに落ちた涙が、膝の上にシミを作る。
「…鹿本、」
“違う”と否定する言葉の代わりに、また住田の口を深く、深く、塞いだ。
END
09.05.18
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