鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
02
指に絡む髪の毛の触感に、頬が緩む。
そうだ、この感触――。
「っ、ちょ」
抗うように弾かれて、その髪の感触はすぐに消え、手に受けた衝撃に我に返った。
いつもそうだ、気がつけば手が伸びる。何度と抑えてきたものの、目の前のそれに触れたいと、頭よりも行動が先走って。
「な、なにすんだよ」
「いや、目の前にあったから」
「なんだそれ!鹿本は誰にでもこんな事してんだろっ」
してない。取り敢えずは戸惑うし、女相手なら自然にムードを作ろうとするだろう。無意識でなんて事、これまでになかったはず。
「タイミングだな、逃せば女は寄ってこない」
「俺に対する嫌味かよ、それ」
「女はいつでも紹介してやるけど?」
「い、いらねぇっ!…じゃなくて、アレだよ、馬場さんだよっ。その話しに来たのに」
「だから…誰だよ、それ」
「最近校門で喋ってるだろ!」
「……あぁ、あれ」
「あれ…、って、」
そうだろ、人を探るようにしか見てこない女。あんなのに捕まったら、お前は良いように使われて終わりだろ。
「なににしても!馬場さんになんてこと吹き込んでるんだよ」
「俺が何か吹き込んだか?」
言葉に詰まり、一瞬で頬を赤らめたその姿がまた面白いんだ。
「お、俺が鹿本に夢中、だ、とか…」
風の音にさえ、負けそうな細い声。
そういうところ、加虐心を煽られるんだよ。
「え?…聞こえねぇ」
「だから…っ!俺が鹿本の事…」
その言葉を恥ずかしがる事自体、肯定してんじゃないのかって思わせるんだよ。
揺らいだ瞳とか、握り締めた拳とか、全部、全部。
先ほどと同じように、住田のこめかみ辺りに指を差込み、絡みつくような髪の毛をまた指先に感じた。
勢いをつけて、後頭部まで一気に進むと、髪を強く握り締めた。
「鹿もっ――っ!」
痛みか驚きかに歪める顔も、全て。
俺には無い。俺と同じ種類である男なのに…、俺とは違う生き物のようだった。
「お前が、俺のことを?」
「鹿本、髪…離せよ」
「言えよ?」
「痛い、鹿本」
その頭の中もきっと俺とは違う。
そんな当たり前のことが、もどかしいなんて思ったこと、無い。
「言えって」
何を考えてる?
何を、見てる?
「俺が、鹿本に夢中だって」
静かに逸らされた視線に、また俺の中で何かが生まれた。
やっぱりほら、考える事よりも行動が先を行く。掴んだ髪を引っ張れば顎が上がり、白い首筋が露になる。
そして、何度か触れたはずなのに、それはいつも新鮮だ。
明らかに女の方が柔らかい事も知っているのに、
分かっているのに、
「……!かっ、…も」
吸い寄せられるように軽く唇を重ね、一度離せば擦れた声が俺を呼んだ。
間から漏れる吐息も全部くらい尽くしたい。
空いている方の掌で、住田の腕を押さえつけた。
抵抗して、胸に置かれた住田の掌は熱を伝えていた。
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