鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
01
緩やかに流れる雲をぼんやり眺めていた。
それに向けて最後の紫煙を吐き出すと、コンクリートに押し付けるように煙草の火を消した。
コンクリートに足を投げ出し、壁にもたれたまま、この吸い込まれるような眠気に身をゆだねようとしていたところだった。
午後の授業?なんだったか忘れた。
まだ出席日数は大丈夫だろう。担任が黙っちゃいないから、声をかけられてからで何とかなる。
昨日帰宅したのは何時だったかな…。
どれだけ深夜に帰宅したって、ちゃんと起きて律儀に学校に来ている自分。
去年の自分では考えられなかっただろう。学校なんて息苦しいだけだった。それでも行かなくてはならないのは、周りがうるさいからだった。
ダブったりなんかしたら、それこそ実家に帰って来いって言われるだろうから。
自由が欲しいが為に、学校に来るくらいなんて事はない。
おじさんが所有していた空き家を借りて、自分の自由な時間を、空間を手に入れるためだけだった。
部屋にダチを連れ込んで酒を飲んだり、女を連れ込んではそれこそ一日中ベッドの上で過ごしていられる。
そんな自由奔放な状態を保つ為には出席だけは必要だったんだ。ただ、それだけだったのに。
―――×××!
どこか遠くで聞こえる騒音が、徐々に自分に近づいてきているようだった。
「××っ、××と×××言えよっ!」
うっすらと目を開くと、細い視界で捉えたのは人の姿。自分を見下ろして、何かを訴えていた。
血相を変えて、今にも突っかかってきそうだ。ケンカならいくらだって受けてたつのに、そいつは掴みかかることもせず、ひたすら見下ろして何かを言っている
「鹿本っ!聞いてるのかよっ」
クリアになった聴覚に飛び込んできた声に相手が誰だかやっと認識できた。
何をそんなに必死なのか。その表情に噴出しそうになるのを堪えた。
「笑ってんなよ、お前どういうつもりだよ」
「なにが」
「――っ!だからさっきから言ってんだろ」
あぁ、寝ぼけてて半分も聞き取れてないんだけど。
「必死すぎだろ、落ち着けよ。住田」
「落ち着いてられるかっ!一体誰のせいで――」
真っ赤になったその顔。
知らないヤツとでもすぐに友達になってしまうような、そんな来る者を両手を広げて受け入れているようなイメージがずっと住田にあった。
騙されやすい性格しているんだろう。そんな俺の期待を裏切らなかった。
「だからっ、何笑ってんだよ、こっちは真剣に話しにきたんだよ」
「っ、で?何の話?」
「だから笑うなって!何も面白いこと言ってねぇだろ」
くだらない事に必死になる姿も。
大した事じゃなくても笑顔で答えれる事も。
俺には持っていないモノで。
多分、人の為にコイツは泣くことができるタイプなんだろう。
「馬場さんになんてこと言ってんだよ!誤解されただろ!」
「馬場さん?」
「そう、馬場さんっ!」
「誰」
「―――っ、」
見下ろすように立っていた住田が俺の足元に膝まづいて、うな垂れた。コンクリートに座ったままの俺のすぐ傍に住田の頭が近づく。
染めているわけではなさそうだけど、黒よりも少し茶色味がかった髪の毛。その髪の毛の柔らかさを知っている。
女でもないのに。
しっとりと絡みつくような長い女の髪は好きだ。
目の前にあるのは甘い香りではなくシトラスの香りを纏った髪。柔らかさのないどちらかと言えば細身の骨骨しい体。見た目もどう見たって男なのに…。
――今なら、触れれる。
そんな距離に、住田が居た。
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