鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
06
「ちょ、ちょちょちょちょちょちょちょ待った、何?何何、何の話?馬場さん!」
ねぇ馬場さんっ!
「え?」
「え?じゃなくって、何、なんで俺が鹿本?どういう話?どこからどうなってんの?」
「だから、私が“鹿本くんのこと好き?”って聞いた所から。頑張って恋愛してるんだよね、禁断だもんね!」
興奮した声を何とか抑えようとしている馬場さんだったが、もう彼女の目が爛々として今にも叫びだす勢いがあった。
「き、聞かれてないし!ってか俺に聞いてたの?馬場さんの事じゃないの?ってかなんでそうなるんだよっ、俺は鹿本の事なんとも思ってないよ、クラスメイトだよ」
なにより男同士だ、禁断?同性愛?考えた事もない。
いや、身体を奪われた時はゲイの道へ突っ込んだんだと悩みもしたが…。
心は健全な男子だっ!
「えぇ、でも鹿本くんが…」
「鹿本が何!」
思わず声を張り上げた俺に、馬場さんがが一歩下がった。
「う、うん、鹿本くんがね“住田は俺に夢中だ”って言ってたから…」
はぁぁぁぁぁぁぁ!?
「ちょ、な、何言って…鹿本が!?」
「うん。アイツに女が出来ないのは女に興味がないからだ、みたいな事も言ってたと思う…」
何を勝手に人の事言ってくれてるんだ!女に興味がない訳ないじゃないか、それ以前に俺が鹿本を好きだなんて、ありえない!
「ばっかじゃね、あれだよ、遊ばれてるんだよ馬場さん。鹿本は面白がってそんな作り話してるんだよ」
「うーん、そうだったの?」
なに、その疑いの目…
「でも、鹿本くんもまんざらじゃなさそうだよね」
「…どういうこと?」
「私がこのところ住田くん待ってたらすごい睨まれるんだよね…たぶん、鹿本くんは私の存在が気に入らないんだと思うんだ」
「でも、馬場さんと鹿本って仲良くなってるよね?」
「鹿本くんは敵にする前に自分の内に入れて、牽制かけるタイプじゃないかな?」
「なんだよ、それ…」
どっと疲れが背中から押し寄せてくるようだった。
この馬場さんの誤解をどうしてくれよう、鹿本も何を思って…。
「って、牽制って…」
「え。あぁ私が思うに鹿本くんも住田くんのこと好きなんじゃないかって…」
「はぁっ!?ありえねぇ」
鹿本にとって俺は玩具でしかない。こうやって馬場さんが俺のところに来るのを面白がってかき乱してやろうって思ってるだけだろ、案の定、乱されまくってるけど…。
「それに、キスしてたんだよね?」
「―――なっ、」
「そんなに動揺して、住田くんって虐め甲斐があるよね」
うふふ、と笑う彼女の笑みが黒い物にしか見えなかった。
「私と電話してた雨の日、それらしい音が聞こえたからてっきり彼女が居るんだと思ってたの。彼女がやきもち焼いて、電話越しに見せ付けられてるのかもって一瞬思って…」
あの雨の日、湿気た空気と、鹿本の行動が一気にフラッシュバックされて、顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。
「そんな男なら、逃すの惜しいかなぁって思って会いに来たんだけど…住田くんに女の影は無いし、鹿本くんの視線は痛いしでね、もしかしてって考えが浮かんじゃって…次は鹿本くんに近づいてみたんだよね」
「もしかしてって、どんな、考え」
「え。出来てるのは鹿本君となのかなって」
「はぁっ!?」
「妄想よ妄想。腐女子って知ってる?ボーイズラブが好きな女の妄想だったの」
彼女の言葉を理解しようと脳がフル回転をし続けている。膨らんでいくような脳内の感覚に、足元がクラクラとしてきた…。
女って…わかんねぇ。
そんで腐女子って…存在は最近良く耳にするけど…こんな身近に?目の前に?
「でもね、鹿本くんは私と話してすぐに電話の相手が私だったって知ってね、あの時キスしてたのは俺だ、って言ったんだよねー」
その場に俺は膝をついてうな垂れた。
何言っちゃってんだ、鹿本…。一体どういうつもりで…。
「てっきり鹿本くんが住田くんのこと好きなのかと思って聞いたら、あいつが俺に夢中だって言ったのよ」
頭が真っ白だ。
「ば、馬場さん…」
違うんだ、と言いかけて、何も違わないと思った。キスをしたことも本当で、それ以上のことにまでなってて。
鹿本に夢中かと聞かれればなんとも答えられない。夢中と言うよりも気になるという程度だったが、それが夢中になってることじゃないの、と問われれば頷くしかないだろう。
「あ、偏見ないよ、むしろ嬉しいって言うか…だからね、これからも友達の位置に私置いて欲しいなって思ってるんだ」
「は、あぁ…」
腐女子って、怖いっ
いや、腐女子の勘が怖い…。
これからも宜しくね、と最後に言って、彼女は去って行った。
俺は益々変な方向へ向かってしまうのだろうか。
平穏な日常はもう戻ってこないのか?
END
09.05.04
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