鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
04











「何その顔」

 彼女のところから帰ってきたがっちゃんは、机に肘ついてぼんやりしてる俺の前に立ちはだかって、そんな第一声を吐いた。

「なに、何かおかしい?」

「すっげぇ眉間にシワ寄ってる」

「あー…、」

 そりゃ、険しい顔にもなるってもんだよ。

「なんかあったの」

「んにゃ、なんも」

「なんかあった顔じゃないの」

「何かって言えば昼飯食ってからおなか痛いくらい」

「我慢せずトイレ行けばいいじゃん」

 我慢せず聞きたい事全部聞けたらいいのになぁ。まぁそんな人が居たら見てみたいものだよ。

「トイレ行ってくるわ」

「んぁ、大丈夫か?また変な顔してるぞ」

 大丈夫。
 別にたいしたことじゃないのに、俺が勝手に想像して、いや…これはもう妄想だ。その妄想をして腑に落ちないだけだ。

 馬場さんが、よく学校に顔を出すようになった。
 学校前で俺を待っているらしい。だからといって俺と馬場さんが男と女の関係ってわけではなくてあくまでも友達というスタンスなんだ。
 回を重ねるにつれ、彼女がその気ならいいかな、とも思ったのだが、俺以前にどうも彼女にその気が無いらしい。
 なら、何故学校にまで会いに来るのだろう…。俺と彼女を冷やかす言葉も落ち着いてきた頃、飛び込んできたその光景は衝撃だった。



「あ、住田くん来た」

 校門を出てすぐにその光景を見つけて、どう声をかけていいものか…なんて悩んだその一瞬、俺に気付いた馬場さんの方が先に声を上げた。

「来てたんだ、待たせた?」

「ううん、鹿本くんが話し相手になってくれてたからそんなに待った気しないよー」

 なんだか、鹿本と馬場さんがやけに親しく見えるのは気のせいだろうか…。

「じゃな」

 鹿本は俺と馬場さんの会話が一区切り付いた所で去っていった。
 それからというもの、俺は鹿本と馬場さんが共に居る所を何度も、目にしていた。

 別に馬場さんに気が有ったわけではなかった。もしもそんな雰囲気になるのなら、馬場さんと彼氏彼女の関係になっても良い、とは思っていた。
 彼女も同じように思っているのなら、いつかは切り出してもいいのかもしれないなんて思って。

 回数を重ねる逢瀬とは言いがたい付き合いも、楽しくなってきていたところだった。

 もしも馬場さんが俺を待っていたのなら、待ちきれなかったのかもしれない。
 もしくは初めから馬場さんにはその気が無かったのかもしれない。

 その気があっても、すでに遅いのじゃないだろうか。

 俺よりも身長も体格も良くて、女子高では珍しい不良グループに身を置いて、キツイ見た目よりも会話をしてみれば案外柔らかい声で喋る鹿本。女性経験も俺とははるかに違う。
 女が選ぶのは一目両全だ。

 馬場さんは鹿本に気があるの?
 そして、鹿本もまた――…?


 鹿本と馬場さんが一緒に居る姿を見るようになってから、なんとも言いがたいシコリのような塊りがずっと胸に引っかかっているようだった。
 二人がその気なら、さっさとくっついてしまえば良い。そして俺はそうなった二人に関わりたく、ない。

 ここ数日、そんなことばかりが“もしも”“もしかしたら”と堂々巡りを続けている。

 トイレ横にある非常階段に腰を下ろして、少し強い風に吹かれながら、長い溜息を吐いた。





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