鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
03





 学校からの一本道。
 そこは当たり前に俺の学校の生徒で溢れかえっていた。馬場さんも相当居心地が悪いのかキョロキョロと辺りを見回しているけど、わき道にそれた所で目的の駅前には遠回りなので、彼女にはもうしばらくだから、と胸の内でわびるしかなかった。

 信号がちょうど赤に変り、進んでいた歩みが止まった。

「住田くんとこうやってまた歩けると思ってなかったんだ。今日は来て良かった…何だかデートみたいだね」

 彼女が言いながら触れた腕に、一気に熱が上がった。馴れ馴れしくスキンシップを図る彼女を見て、先ほどまでの気遣いが一瞬薄れた。
 案外、自分が思っているよりも女性の方が太い神経をしているかもしれない、と。

 何が楽しいのか、先ほどから彼女の笑顔が耐えない。
 これは…いける?もしかしたら本当に自分の彼女になる可能性が高いのかも?
 そう、過ぎってしまうと自分の内に秘めた興奮が表に迫り出すようだった。

 焦っちゃいけない、折角のチャンスだ。

「デート、って…」

「うん…だってあの時ここまで来るつもりだったし。やっと来れたって感じ?」

 うっわぁ、これは、もう…。そういうことだよな。男なら勘違いしたっておかしくない展開だっ。

「ば、馬場さん…っ」

「うわぁ、なんかすごい」

「え?」

「ほら、あぁいうの・・・」

 馬場さんが指差した先には、交差点にたむろって居る数台のバイクと、カラフルな頭のうちの生徒。

「なんか不良グループって新鮮」

「あぁ…、馬場さんは女子高だもんね。女子ではいないよね」

「うん、不良って感じの子は今は居ないし、迎えに来てる車とかバイクとか…見るけど、なんか男が使われてるみたいで嫌なんだよね」

「ふーん、そうなんだ」

 信号が、もうすぐ変ろうかと言う頃、その集団のなかから軽く手を挙げ別れを告げると、こっちへ向かってくる一つの影。

 鹿本だった。

 一瞬で合った俺との視線は逸らされずに、鹿本が寄って来る。どんどん縮む距離の中、鹿本の表情は何一つ変らなかった。

「っ、…え、っと」

 目の前にまで近寄って来ても、何一つ声を発しない鹿本。でも何か言いたそうなその表情。

 もしかして、彼女かどうか…と冷やかされるのか?

「…鹿本?」

 漏れるように出た言葉に、鹿本の口元が弧を描いた。
 それは何かをたくらむように、不敵な笑顔。

「住田くんの友達…なんだ」

 どこか張り詰めたような空気を裂いたのは馬場さんの声だった。
 鹿本の視線が馬場さんに向き、そしてまた俺に戻る。あの笑顔のまま…。

「また明日な、住田」

「…え、あ、あぁ」


 って、わざわざ明日の約束をするような、そんな親しい仲じゃないですけどっ…!

 鹿本は笑顔を貼り付けたまま、交差点を渡って行った。

「く、クラスメイトなんだ」

「そうなんだ、仲良さそうだね」

 馬場さんにはそんな風に見えたのか。
 鹿本の気味の悪い笑顔、何かたくらんでいるんじゃないかと気が気じゃない。馬場さんを一瞥したあたり、俺の恋路(?)を邪魔しよう、なんて思っているんだろう。

「すごいカッコイイクラスメイトだね」

「え、鹿本のこと?」

「鹿本くんって言うんだ…」

 チッ、鹿本!
 すでに目で馬場さんをその気にさせたのか?
 俺の恋路は邪魔される以前に路(みち)が出来そうにないみたいだ。





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