鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
02
「もちろん、うん、…覚えてる」
あぁ、すっごく覚えていますとも。あの携帯が駄目になる直前まで、その携帯での最後の会話を交わしていた彼女なんだから。
その後、連絡取ろうかそれなりに悩んで、結局うやむやが一番いいんじゃないか・・・なんて思った彼女。
ずいっと俺の前に立ちはだかる彼女と俺を見て、がっちゃんはやっぱりいらぬ気を使った。
「あー俺行くわ。住田、また今度で良いから買い物付き合ってくれよ。また後でメールする」
「がっちゃん…ちょ、」
俺の言葉なんて聞こえない、とばかりにスタスタと去って行く。
残された俺はなんだか居たたまれない。
ただ連絡が取れなくなって、ならまだしも…最悪彼女にはアレを聞かれている可能性が高いのだから。
「あー、えっと」
「馬場ゆかりです。名前は覚えてた?」
「あ、あぁ、うん…」
携帯に登録してあったその名前を、記憶の端から蘇らせた。確か、そんな名前だったなぁ、なんて。
「前は電話途中で切れちゃうし、嫌われてるのかと思ったんだけど、どっちにしても一度合ってちゃんと話したかったんだ…」
「あぁ、そうなんだ。あの、あの時はゴメンちょっと…」
あの場を見ていたわけでもないのに、なんだろう・・・この気まずさは。
「連絡、待ってたんだけどな〜」
「あ、いや、その…携帯潰れて、さ。データ全部吹っ飛んで、人伝いに連絡入れてもらうか、またケー番教えてもらおうかとも思ったんだけど、ちょっとウザイんじゃないかって考えて…」
「潰れたんだ!?…あ、もしかしてあの時?電話切れる瞬間すっごい音したけど」
「マジ?」
すっごい音、したんだ。そりゃねぇ…可哀想に、俺の前携帯。
傷まみれの無残な姿で転がっていた携帯を思い出した。すごく、大切に使ってたんだよ、ホント。
「その、そう、あの雨の日に手滑らせてね、窓際だったから教室から外に落として…」
「その音だったんだ、連絡も来ないから嫌われたかと思ったよ」
ふふっと笑って、馬場さんは辺りを気にするように見回した。やっぱり女の子が一人で他校に乗り込んでくるのにはそれなりの度胸も要るだろう。しかも某有名女子校の制服というのがまた人の目を引く。
「場所、変えよっか…」
「え?…あぁそんな気にしないで、私は大丈夫だから。って住田くんが後々大変かぁ。彼女なんて噂が立ったら迷惑だよね」
「そんなこと、無いけど…」
何気に頭を上げた先には、ニヤニヤとした笑いを向けてくるクラスメイトが居て、こちらを凝視している所だった。
馬場さんが言うように、明日はきっとこの事を根掘り葉掘り吐かされる事になるんだろうと思うと、気が重い。
本当に彼女なら、自慢してやるのに…!
「…やっぱり馬場さん、どこかに入って話しよう」
「そう?じゃぁ〜駅前にでも行こうか」
どちらにしろ、アドレス交換もしないと駄目だろう。がっちゃんとの約束もなくなってしまった俺には、幸い時間だけはたっぷりあった。
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