鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
01
俺の元に平和な日常が返って来た。
学校に行って、がっちゃんとくだらないこと喋って寝て、学校が終わればバイトして、たまの休みは友達と遊んだり、そんな今までの日常。
未だに俺の周りに女っ気がない事が気がかりだが、以前のように求めて仇になるのもどうかと思う(鹿本の合コンに付き合わされた件)ので、もう神頼み。俺はじっと待っている事に決めた。
そして鹿本も、このところ俺に構ってくることもなくて。いや、それ以前に構われていたのか?構われていたというか、遊ばれてたんだろうな。
時折感じる視線も、振り向いてぶつかる視線も、気にしないようにと心がけているうちに、動揺するようなことはなくなった。
俺と鹿本にある秘密の関係は、鹿本が公言しない限り、誰にもバレやしないんだから…。俺は口が裂けてもあんな行為があったこと、言えないし。
悩んで過ごす事も馬鹿らしいくらい、鹿本は何も変わらない。悔しいから、気にしない。
「住田、今日はバイト?」
カバンに教材を詰め込んでるところがっちゃんの声が掛かる。
「うん。…なに?なんかの誘い?」
「あぁ…まぁちょっと買い物に付き合ってもらおうと思ったんだけどなぁ。いいやまたの機会に」
「駅前?」
「うん」
「うあぁ、俺も欲しい物あんの。明日は?明日なら空いてるから」
「なら明日でいーや」
がっちゃんは約束をするだけして帰って行った。
――そんな約束をしたのは昨日で、がっちゃんと約束どおりに駅前のショッピングモールに向けて学校を出たところだった。
「次、給料入ったら久々に出ようぜ」
出ようぜ、っていうのは電車で一時間ほど出た街の事だった。流行のものを安くで手に入れようと思ったら、その街が一番早い。若者の情報基地、って感じだろうか。
「いいねぇー。でもがっちゃんは香奈ちゃんとデート行くんだろ?」
「香奈と行く時は向こうの買い物ばっかだよ、後は飯食うくらい。たまにはじっくりスニーカー悩みたいだろ」
なっ、と俺の肩に手を置いた。
男の好みは男にしか分からないんだろう、それでも学校帰りに“出て”デートが出来るの、憧れるわけなんですけども。
久々のがっちゃんとの下校は楽しかった。これは俺も散財覚悟で、と内心財布の中身を気にしながら…としてたところ。
がっちゃんの腕が俺の歩みを止めた。
「おい、住田」
「はい、がっちゃん」
「見えてるか」
「見えてる…」
学校を出て少ししたところに立っている人の姿。もう忘れそうになっていたところだった。辛うじて制服を覚えていた、って感じだろうか。他所の学校の制服で立っていればいやでも目立つ。
「がっちゃんに?」
「俺じゃないだろー、明らかに」
「じゃぁ香奈ちゃんか」
「かも知れない…どうかな」
こそこそ、そんな会話をしている俺たちに気付いて、手を振りながら駆け寄ってくる姿。
「ほら、やっぱりがっちゃん!」
「いやいやいやいや、俺じゃねぇだろ、いい所までいってたのお前だし」
駆け寄る姿を見たくなかったわけじゃない。むしろ望んでいたんだ。だけど、なんで今頃?
「住田くんっ、覚えてるよね?」
ニコニコと携帯片手に笑いながら、彼女はそう言った。あの合コンで、彼女に話しかけるきっかけになった…俺と同じメーカーの携帯片手に、だ。
懐かしい、と一瞬思いながらも、その携帯が潰れた原因を思い出した俺の笑顔は引きつっていたに違いない。
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