鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
03
「はぁぁぁぁ」
「時間が経つにつれ大きくなってくな、そのため息」
「がっちゃん・・・今日一日ほんっっっとついてない気がして仕方ないんだけど・・・」
「気の持ちようじゃねぇの?」
「そうなのか?・・・まぁ、そんな一日も終わったし、今日はバイトないし家でゲームすることにした。外に出てたらろくな事なさそうだし」
下駄箱で靴を履きながらそんな会話をしている時も、やっぱり俺の神経は張り巡らされていた。
大丈夫、居ない。
って、思えば別に避ける理由なんてないし、むしろ仲良くなっちゃえば良いんじゃないかと思うんだが。
いや、ダメだな。そんなの無視されて終わりだ・・・。全く鹿本の考えている事が分からない。
何だって俺を・・・俺を・・・あんな目に、俺の身体を・・・
「だあぁぁぁ!!」
「大丈夫か、医者連れてこうか?精神的なものって自分では気づいてなかったりするからな」
がっちゃんって淡々と非情な事言うね・・・
そんながっちゃんとは下駄箱で直ぐ分かれた。ヤツは毎日彼女と帰ってるからね、仕方ない。仕方ない・・・。
「はぁ…」
思えば、俺にだって彼女が出来かけてたんだ。なのに、鹿本に雨の中放り出された携帯のデータは消えて彼女と連絡さえ付かない。
いや、がっちゃんの彼女に頼んだらまた連絡付くかも?
ってか、あんな切られ方して連絡つかなくなったなんて…愛想着かされてるだろうな、今頃何を、って思われて終わりか。
「はぁぁぁ」
ツイてないのはもう鹿本と関わってからずっとなんじゃないか?
「ん?」
下校時刻だから、門をくぐって直ぐの道には生徒がたくさん居るんだけど、その中に目立つ存在…鹿本の姿を見つけた。
神様は今日、俺をどこまでも鹿本と会わせたいらしい。そうはさせるか、と歩くスピードを遅くして歩く。そのうち姿が見えなくなるだろう、それまでは気付かれないように歩いていればいい。
「くっ」
いつもよりも時間を掛けて帰宅しているわけだが。
鹿本ーーー!
どんだけ歩くのとろいんだよっ!思わず追いついてしまいそうになるたびに焦って、まだ家まで半分以上道のりあるのにすでにクタクタ。
仕方なく、路地を入って直ぐの所で立ち止まり、時間を潰す事にする。ほんと、バイト無い日で良かった…。こんなの遅刻間違い無しだ。
どれくらい隠れていたか、もう良いだろうと路地から出た頃、帰宅する生徒の溢れていた道にはぽつぽつとそ姿があるくらいだった。
―…俺、何やってんだよ
もうとっくに鹿本の姿も消えていたし、早く自分の家に帰りたかった。ゲームするとか言ってたけど、眠りたい。なんだか疲れた。
家まで帰るのに大きな道路を2本横切る。一つ目の信号脇にバイクに群がる不良の集まりを見つけてドキリとしたがその中に鹿本が居るわけでもなかった。
そんな不良の集まり一つで反応してたら、この先どうなるんだ、と自分に苦笑を洩らしながら帰宅を急いだ。
そして二つ目の信号に差し掛かったときにちょうど赤に変わり、タイミングの悪さを呪ったが今日一日を考えるとマシだし、これで今日一日のツイてない出来事が終わりだといいなぁ、とぼんやり目の前を走る車を眺めてた。
ふっと、自分の傍に立つ人影に気付いて顔を上げた。
絶句。
「…か、もと」
「…」
アレだけ時間潰したのに、コイツはどこに隠れてたんだ!
「…ち、違うんだ、ほら、鹿本は俺ん家知らないだろうけどさ、通学路一緒なんだって、これ渡ってしばらく行ったところ鹿本は直進だけど、俺左曲がるから…」
「……」
「ほ、ほんとだって、別につけてたとかそんなんじゃないからな」
これでも考えて歩いたんだからっ!
「…」
「鹿本?」
「―…お前、女できたら大変だろうな」
「えっ!?」
くつくつ笑う鹿本の言いたい事がいまいち分からなかった。
「俺のこと気にしすぎだろ」
「―――!!!」
ポスッと俺の頭に手を乗せてから鹿本は青になった信号を渡って行った。
俺はしばらくそこから動けなかった。
END
08.07.08
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