鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
01







「最近多くないか?」

 俺の前に座り、そんなことを問いかけるがっちゃんの手には牛乳パック。さっきベタにあんぱん食べてたよ、この人。ってか牛乳飲むならマンゴーオレだろ、イチゴオレも好きだけど、そこはマンゴーだって。あんぱんには合わないかもしれないけど、俺はマンゴーを勧めるね。


「何が」

 そんな俺はいつものようにマンゴーオレをズズッと吸い上げた。


「ため息」

 
 あぁ・・・、ため息も出るよ。

 口が裂けてもいえないけど・・・俺、男なのに男を受け入れてしまったんだよ、がっちゃん。


「まぁ、色々と・・・」

「悩みがあるなら言えよ?」

「・・・・うん、」

 悩み?・・・そうだ、男としてどうなんだってトコだよな。

 ってか、あれから二週間になる。なのに、鹿本と言葉を交わしていない、一言も。目すら合わない、同じ教室に居るのに。

「・・・はぁ」

「ほらまた」

「うるさいよがっちゃん!牛乳野郎め。雑巾みたいに臭くなるぞ」

「お前こそそんな甘いオレばかり飲んでるからチビなんだ、このチビ。牛乳飲め」

「・・・・!が、がっちゃんそんな風に思ってたの!?ってか俺はチビじゃねぇ、がっちゃんがひょろっと長いから隣の俺がそんな風に見られるだけだっ林田よりも断然高い!」

「林田と比べるのかよ。その辺の女子の方が林田よりも高いだろうが」

「うっ」

 ごめん林田。気にしてる事を。


「どこ行くんだ住田」

「トイレっ!」



 こう、何か悶々としたものがあるときって、何を言われても腑に落ちないというか・・・苛々する。くだらない事で。
 別に牛乳嫌いじゃないし、俺ってチビって言われるほど低くないし。どれも大した事無いのに。


「はぁ」

 

 トイレ済ませて、手洗って外へ出ようとしたところで、目の前に人影、いつもなら全然気にするようなことじゃない。でも、そのちょうど俺の目線。

 襟が開かれたシャツから覗く、見覚えのあるアクセサリーに勢いよく頭を上げた。

「うわ、」

 でた、鹿本。やっと・・・いや、なんていうかバッチシ目が合って、全然気にすることでもないのに何か話しかけなくちゃとか思っちゃって・・・

 い、いや・・・どっちかって言うとそんな事気にすることでもないし、え、ってか俺被害者だし・・・ってなに俺考えてンの。

 ぐちゃぐちゃな思考は言葉にもならず、相手に何が伝わるわけでもなく、ただの挙動不審者。


 と、鹿本の視線が外れて、手が俺の肩に乗ったかと思えば脇に押しやられた。それはトイレに入るのに俺が入り口でそんなんだから邪魔だった・・・って事で。

「あ、ごめっ」


「・・・・」

 む、無視―――!

 
 いや、いい。気にしない。思えば元からこんな感じだった、鹿本は。ちょっと体の・・・いや、関わり!関わりがあったからって仲良くなんてならないもんだ。


 気を取り直してトイレから出ようとしたところで、一度離れた鹿本の手が、また俺を引き戻した。

 気付いた時には、鹿本の髪が俺の頬に触れるくらい近くなってて、ドキリとした。


「え・・・なに!?」


 耳元に、鹿本の吐息が掛かるのが分かってそのくすぐったさから身をよじった―・・・





「チャック、閉め忘れてんぞ」






 う、うわーーーん!





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