鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
05





「起きろ、歩け。」



目を開けたら目の前がアスファルトだった。




「あれぇ。ミツさんはぁ〜車〜」

「うっせぇ、黙って階段登れって。」

よたよたと足を前に出すも、自分の思っているところに足が掛からず、階段を少し登っては滑り落ちた。

「いったーーーーい、痛いよ鹿本。なんだよこの階段、痛すぎるって。」

「・・・わけわかんねー事いってんなよ。ほら。」

何とか階段を登りきって・・・いやほぼ鹿本が引っ張り上げてくれた感じでだけど・・・、鹿本が玄関を開けると俺を押し込んだ。
何度か来た家だからか、我がもの顔で靴を脱ぎ、鹿本のベッドまで一直線に歩いていく。
どさっと体を預けるとくらくらと脳が回っている感覚にまた目を閉じた。


「住田。おい、こら。」

「かーもーとー、くせぇ。お前煙草くせぇ。ついでにねぇちゃんくせえ。風呂いけッ!」

つかまれた腕を振り払うと、あっさりと鹿本は去っていった。
うっすらとした意識の中でシャワーの音を聞いて、あぁ俺の言ったとおりに風呂行ったんだな。なんて思いながら。






揺れる感覚に目を覚ませば、ベットにもたれながらテレビを見ている鹿本の後姿が視界に入った。
のっそりと体を起こすと、揺れていると思ったのは俺の脳。
鹿本の後ろから手を伸ばし、鹿本の持っていたものを奪い去って喉に流し込んだ。

「馬鹿、ビールだそれ。」

言われて、やっと気付く。
どうやらあらゆる感覚が酒で奪われたらしい。

「み、水ぅ・・・」

ミネラルウォーターのボトルを受け取り、ごくごくと飲み干していく。
喉が潤った所で鹿本に手渡し、またベッドに沈んだ。


「鹿本ー、鹿本ー・・・なんで俺ここに居んの?」

「お前んち知らねーから。」


「鹿本ー、・・・。」



ギシリとベッドが軋む音に目を開けると、鹿本がベッドに上がって来る所だった。


「・・・やだ。」


「・・・なんもしてねぇし。つうか、俺寝たいんだけど?住田が下に寝ろよ。ほら。」

ごろりと転がされ、そのままの勢いでベッドから落ちる所だった。
というか、落とされると思った。
動かない体と思考でそう思ったのに痛みはやってこなくて、代わりに鹿本の温もりが近くなった。


「あれぇ?」

「チッ、マジ厄介だなお前。」

上半身がベッドからずり落ちている状態で、鹿本が俺を支えていた。


「うはははは。」


ぐいっとベッドに引き上げられた勢いのまま鹿本に身を任せる。

もう、メンドクサイ。

なんていうか、眠い。


俺の適当な動きを鹿本がコントロールしてくれているのが面白くって、いつものお返しとばかりに鹿本に迷惑をかけてやっても良いかという気になった。



「鹿本ー、なんでぇ、いっつもぉ、いじめんのぉ。俺のこと嫌いなのーぉー」

「いじめられてる自覚あったのかよ」

「あんなのぉーイジメ以外のなんなんだよぉー」

「気持良い思いしてひどい言い草だな。ってかマジ、寝ろ。酔っ払い。」

「酔っ払い〜?鹿本がぁ、俺のことほったらかすからこんなことなったんだぁーろ?ん?」

「なんだよ、嫉妬かよ?」


笑ってる、って頭を預けた鹿本の胸の振動から感じとって、そのまま胸に頭突きをかました。


「笑ってんなよっ。お前が俺を連れてったんだろぉ〜?ちゃんと説明しなかったお前にもー責任があるんだー、酒出るとかおもわねぇしぃ、ってか住む世界違いすぎーーーー」

「折角女捕まえるチャンスだったのにな。欲しがってたから誘ってやったのに飲みつぶれるってもったいねぇ事したな。あの女とまた会わせてやろうか?ハルちゃん?お前がそんな名前だって初めて知ったし。」

「・・・だろうなぁー。鹿本が俺に触れない限り俺らは全く交わる事なんてぇーありえないタイプだろぉ〜俺だって好きでこんなところ、に、居るんじゃ・・・・」

鹿本の眉間にシワが寄ってる事とか、鹿本の目つきがきつくなってる事とか、握り込まれた腕の力が痛いとか。
色々気付いていたはずなのに、止まることを知らない俺の口と視界が狭くなっていく重たい瞼。


「ふぅん、そんな事言うわけ。」


「んあ?」


「寝る前に、色々と確かめとくか?」





「・・・・・やだ。」




ギラリと光った、ように見えた鹿本の視線を知っていた。
酔った頭でもこれはマズイ、なんて分かる程度に・・・それだけ鹿本のこの先の動きを俺は身を持って知っている、というか・・・。


いじめっ子の視線と言えば一番分かりやすいだろうか?






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