鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
03





「おう、タツ。久しぶりだな」

「どもマスター。」


入って直ぐに声を掛けてきたカウンターの中の髭を生やした中年男性。


「おいおい、タツ。ツレ明らかに未成年じゃねーか」

「あはは、今更何言ってんっすか。こいつ俺のクラスメート。」

「・・・お前もまだそんな歳だっけ?」


こ、こんなに喋る鹿本もこんなに微笑む鹿本にも知らない。
珍しい物を見るように、鹿本の横顔をまじまじと見つめた。

それに気付いたらしい鹿本が俺に視線を移す。

「なんだよ。」

「い、いや・・・何も・・・」

「じゃ、住田適当に女捕まえろよ。」

「え?」

そう言って人を縫って奥へと進む鹿本の後ろを必死で付いていく。
行きかう人々が鹿本に声を掛けたりして、店全体が一つのパーティーの様に見える。

もしかして・・・これが合コン?

そんなに広い店じゃないけど、こんなところで一人で時間を潰せるとも思えなくて・・・・。
どこをどう連れてこられたのか分からないし、鹿本にほったらかしにされたりなんかしたら俺は帰れそうに無い。
だから鹿本が適当に、なんて言っても俺は鹿本から離れることさえ出来ずに居た。


「な、鹿本・・・これって合コン?」

「あぁ、いっつもこんな感じだ。お前も俺にばっか付いてないで女と絡めよ?」

ニヤニヤと笑いながら鹿本はテーブルの一つの席に着くと煙草を取り出しジッポで火をつけた。

俺の知ってる合コンってのは男と女が自己紹介して・・・そっからじわっと会話が広がって・・・とかそんな感じなのに。
店にわらわらと居る人間の誰が合コンのメンバーなのかさえも分からない。
皆が皆個人で客として酒を楽しみに来ている様な雰囲気だった。



「タツ、いつもの。ツレも一緒にしておいたけど・・・酒大丈夫なのか?」

そうやって出されたのは何やらカクテル。
こんなトコでジンジャーエールなんて物が当たり前に出るとは思えない。
そして鹿本と同じものが俺の前にも置かれた。

「住田、飲めるか?」

「え、言うほど飲んだこと無いけど・・・」


そう言って勧められるまま目の前のグラスに口を付けた。






「たっちゃん、隣の子だぁれ〜?」

「ツレ。」


しばらくすれば、俺と鹿本のテーブルに甘ったるい匂いをまとった女性が入れ替わりやってきた。
中には鹿本の知り合いっぽい人も居て、俺のことを色々鹿本に聞いていた。

「ねぇ、名前は?」

「え、お、俺ですか?・・・住田陽日(すみた はるひ)デス」

キラキラとした大きな目で見つめられて、ドキドキするのは・・・きっと男だったら誰でもだ。
女子高生とは違う大人な雰囲気にたじたじなのも正直な所。

しばらくそのお姉さんと話しているうちに、鹿本は寄って来た別の女の人と席を外し、カウンターに移った。

鹿本の行く合コンとはこういうものなのか、と感じつつも、俺は目の前のお姉さんに勧められるままコクコクと酒を飲み続けていた・・・らしい。








「たっちゃ〜ん!ちょっと、たっちゃん。こっちこっち。」

「あんだよ。」

「ハルちゃんやばいよ?」

「あぁ?誰ハルって。」

「はぁ!?たっちゃんのツレでしょ?」

「・・・・住田?」

「テーブルでつぶれてるんだけどー!」

「おまっ・・・飲ませたのか?」

「しらな〜い、えへへ。ハルちゃんペース早いから飲めるもんだと思ってた。」


鹿本が大きく溜息を吐くと、会話を聞いていたのか様子を見ていたのか、マスターからグラスに入った水が差し出された。







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