鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
02










“8時に家の前”

たったそれだけしか送られて来なかった鹿本からの合コンに関するメール。

え、俺ん家?

なんて思ったのは一瞬で。
鹿本が俺の家を知るはずもなく、って事は鹿本の家を指すわけで・・・。



初めて接触した時を思い出させる閉められたシャッターの前に立ち、かれこれ10分が過ぎた。


鹿本出てこい!と玄関を睨み付けるも出て来る気配なんてなくて。
メールでもするべきかと携帯を取り出した。


と、そこへ一台の黒塗りの車が滑り込んできた。

目の前に止まるフルスモークはまさしく大雨の日を思い出させるもので、その車はパパーンとクラクションを鳴らした。
あまりにも響くその音に思わずビクリとしたが、ただでさえ夜でこっちからは車内が見えないし、もしかして向こうも俺のことを見てたらいけない、と思いあえて視線を手元の携帯に持っていく。

カタリと音を出したのは鹿本の家の玄関の扉で「まさか」と思わず口に出た。


「行くぞ」

俺の元まで階段を降りてきた鹿本がフツーにそんな事言うもんだからこの車で?とか、合コンだろ?とか色々問いたい言葉が全て飲み込まれてしまった。


「ちょっ・・・」

俺を一瞥して、さっと後部差席を開けて乗り込もうとする鹿本の服の裾を引っ張った。

「早く乗れよ」

「え、あ・・・鹿本」

さっさと乗り込んでしまう鹿本。

思わずためらう俺を運転席の誰だかわからないロン毛の金髪男がこっちを見ていた。
身をすくませた俺の手を鹿本が引っ張り後部座席に引きずり込む。

「そいつが?」

「あぁ、ヤマトの代わり探してたろ?」

「まぁな・・・別に居ないなら居ないでも良かったけど?」

バックミラー越しに鹿本と会話をするロン毛はチラリと俺を見てニヤリと笑った。
その笑いを見ていたのだろうか、鹿本が小さく舌打ちをして、またロン毛は笑った。

煙草の臭いでむせ返りそうなその車内での会話はたったそれだけだった。






しばらく揺られて、着いた場所は薄暗いBar。



「え?ここで?」

「あぁ、下りろよ。」

地下に続く階段は小さな光で照らされていて、明らかに高校生が立ち入れるような場所ではなかった。
チラリと見上げた鹿本は高校生になんか・・・見えない。


きっとさっきの会話から俺は“ヤマト”という今日来れなかったヤツの代わりで、居なくても別に良かったって事だから・・・・

適当に座ってれば大丈夫、だよな?

鹿本に押されるように階段を下りて、扉を開けたそこは先ほどの車の中を思わせる煙草の煙の充満した、俺からすれば現実からかけ離れた世界だった。





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