鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
01
「住田、どうした新しい携帯・・・」
「えーっとかくかくしかじか・・・で。ふっかーい訳が・・・。」
鹿本が飛ばした携帯は無残にも割れていた。
せめてデータだけでも、なんて思ったのにあの雨にしばらく打たれていた俺の携帯は見事に蘇らなかった。
元からメールしまくるタイプでもなかったし、アドレスって言ってもちょっと前に連絡とって無い奴は削除したし、同じガッコの奴かバイト先程度だったから大した問題にもならなかった。
ただ、思わぬ出費がかなりの痛手・・・。
次の給料まで何日あんだよ、って話し。
しばらくはこれで鹿本に貢いでもらおうなんて一瞬よぎったけど、やっぱりアイツと関わって俺にプラスになることなんて一つも無いことを思えば、触らぬ神になんとやらだ。
「はぁ・・・」
結局あのまま携帯ぶっ壊れて、合コンで知り合った女の子と連絡を取る手段が途切れてしまった。
ちょうど良かったのかもと思う反面、折角のがっちゃんの誘ってくれた合コンだし、とか
折角の童貞卒業が遠のいた、なんて思うと少しはもったいないことしたな・・・なんて思う。
“来週の土曜日空けとけよ”
見下ろす鹿本とその声を思い出して、鳥肌が立った。
あの言葉は本気なのだろうか?
俺を鹿本の合コンに?
と、とんでもない。
どんな恐ろしい事が待ち受けているのか・・・・お姉様を用意してくれるなんて言ってたけれど、あいつの関わる人間の集まりで呼ばれたお姉様なんて想像しただけでお水系とかだろうと思うと・・・
・・・・俺、食われちまうよ!
彼女のところへ向かったがっちゃんを声だけで見送ると、新しい携帯を弄って時間を潰す。
紙パックのマンゴーオレの最後をズゴッと吸い切って、ゴミ箱に向かった。
「住田」
「ふぇ!?」
ゴミ箱の手前で声を掛けてきたのは鹿本。
ありえない・・・
鹿本がこんな時に声を掛けてくるなんて。
いつも絶対二人きりか周りに人がいたとしても、わずかにしかいない所で・・・なのに。
昼休みも残り10分といった教室は半分以上のクラスメイトが教室にたむろってる状態。
物珍しそうに鹿本を見て動きを止めた俺に、鹿本はさっと手を出した。
「え?・・・なに?」
出された手に条件反射のように空になったマンゴーオレのパックを乗せた。
「馬鹿かテメー。せめて残ってるやつよこせよ・・・じゃなくて、出せって。」
「な、なに・・・!?」
こ、こんな公衆の面前でカツアゲですかっ!?
「いや、むしろ鹿本が出してくれないと・・・俺もうやばいから。生活できない・・・」
携帯買って財布はすっからかんだよ!割引とかたいしてしてもらえなかったんだから。
「あぁ?」
ギッと睨まれて思わず飛び上がりそうになった。
スンマセン!とか言いそうになったよ、俺。
すると次ぎに出された手に乗っていたのは鹿本の携帯。
「え?」
「はぁ?お前が今出せっつったんだろ?ちゃんと登録しろよ、こないだの約束覚えてんだろうな。連絡入れっから。」
「え、え・・・えぇっ!?」
「早くしろよ」
え、えぇー・・・っと。
鹿本が出せって言ってたのは俺の携帯?
合コンの連絡入れるためにアドレス交換、ですか?
い、今更ヤダとか・・・・言えない、よねぇ。
なんか俺が出せとか言ったっぽい事になってるし・・・。
・・・・・・。
「あ、あはは・・・」
「ばっくれんなよ?」
2台の携帯を弄っている俺に、そんな言葉が降り注いだ。
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