鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
02






一昨日の鹿本は、きっとサボっていたのだろう、1日教室には姿を現さなかった。


昨日の鹿本はこないだの女と一緒に1日居た。
廊下で見かけたときも、帰りの下駄箱でも。
授業が終わるたびにどこからともなく現れるその女がウゼーと心底思った。


今日の鹿本は朝から不機嫌そうだった。
昨日の女と違って、現れるのは鹿本の仲間。
その存在感ったらありゃしない。
扉を開ける度に教室に居るヤツがこっそり訪問者を見る。見つからない様に、だ。
朝からずっと来ていたのはオレンジのツンツン頭・・・俺の認識が間違ってなければ鹿本の一番の友達、のはず。


いや、そんなんどうでもいいの。


鹿本はいつも一人で居るんだ。
一人で居てもそれが様になってて、やっぱり周りはそんな鹿本に近づこうとはしない。


なんで最近一人で居ないんだっ。
上手く事が運ばないのはもう、俺の運命なのか?そうなのか?

重たい、鞄が。気持ち的に。


鞄の中に入っているのは鹿本から借りたDVD。

俺がシュミレーションしているのは、鹿本が一人の時に、DVDを返すというもの。
家に返しに来いと言われたけど、誰が行くか!
鹿本が俺に渡したように、無理やり鹿本に袋を渡すんだ。それで終わりなんだ。

なかなか機会がなくてこのところずっと鞄に入りっぱなしのそれは、先輩のものだと言う鹿本の言葉で傷をつけないようにと最新の注意を払って持参してきている。
ただでさえ気疲れを起こすんだよ、これ。

早く返してスッキリしたい!





なのに、今日も無理だった、とガックシ肩を落として廊下を歩く。

また明日チャレンジか。


トボトボと廊下を進んでいると、目の前の角を曲がってきたオレンジの頭の鹿本の友達。

もしや鹿本が居るかも?

一人ならこんなチャンスはない!
教室だとどうしてもひと目につくし。

せかすように足を前に出し、角を覗く。



「ぶっ」


予想だにしない衝撃。


「・・・っ、すんません」

焦りすぎて曲がり角で人とぶつかるなんて。
少し冷静になれ、俺っ。



「おう。」

「・・・・・・。」


降ってきた声に弾かれるように顔を上げた。


「なんだその顔。失礼な奴だな」


そう言って歩き出した腕を慌てて掴み取った。


「か、かかかか鹿本っ!」

「あ?」

「ちょ、ちょまって。」



慌てて鞄から出したその袋が、手を滑り危うく落としそうになる。

あわあわと、袋を必死に掴んで、ホッと一息ついた所で先手をつかれた。


「家に持って来いっつったろ」

「や、えーっと・・・」


「・・・・。」

「無理・・・なんで。」


目、怖くて合わせらんないんですけどっ・・・。


「俺こそ無理。今日鞄持って来てねぇから。」

「そそそそこを何とか。」


勢いだ、ここは勢いだ。

と、物を鹿本に押し付ける。
押し付ける。
押し付ける。

・・・おしつけ・・・


なんで受け取ってくんねーの!


手を離すと地面に落ちるのは判っているから、鹿本の胸にそれを押し付けたまま、離す事が出来ないでいた。


「住田・・・お前これ持って女のトコ行けってか?・・・こんなもん持って行ったらどうなるかわかるか?ん?チェリーくん。」

「お、ちょ、いや、そりゃ」

判るよ、判るけど、俺には関係ないしっ!





「住田〜!」


と、タイミングが良いのか悪いのか、いや悪いな。
後ろから声を掛けてきたのはがっちゃん。

鹿本と一緒のところとか見られて・・・なんて思うかな、がッちゃん・・・いや、鹿本こそ俺と一緒のところ見られて迷惑か?

と、それどころじゃない!

慌ててその黒い袋を後ろ手に隠してがっちゃんと向き合う。


「や、やあ・・・がっちゃん、何か用?」

「あー・・・鹿本?仲良いのか?」

少し声のトーンが落ちるがっちゃん。

「う、いや、その角でぶつかって謝ってたトコ。それより、何?」


「ん、あ、あぁ合コンの話し。土曜になったから。また場所決めたらメールするから。日にちは早い方が良いだろバイト先のシフトもあるし、さ。」

「わかった。ありがとーがっちゃん。」

「じゃな。」


チラリと俺と鹿本を見比べて、一番近い階段を下りていったがっちゃん。
その姿が消えてから、やっと後ろに回した手を下ろした。


「じゃ、俺も忙しいから。」

「ちょっと、待ってってコレ持って帰ってよっ」

「今日持って来いよ?」

「え」


「また夜には家に帰ってるし。どう考えたって今は受け取れねーから。」


それだけ言って鹿本もがっちゃんと同じ様に階段を下りていった。

「ちょ・・・」

作戦失敗、どころか・・・悪い方に転がったとしか思えません・・・・。






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