鹿本くんと住田くん | ナノ



鹿本くんと住田くん
01






雨の日に、鹿本から借りた傘を差して帰ったものの、結局風邪をひき、2日ほど学校を休む羽目になった。


早く鹿本に傘と上着を返さないと、持ってれば持っているだけ命が縮んでいきそうで・・・。

かといって学校に持ってくるなって言われたし、バイトの帰りに寄ろうと思っても、その傘をバイト先でパクられたりしたらマジで命がなさそうで・・・できなかった。


結局バイトの無い日に学校から帰り、家で時間を潰してから鹿本の家に向かうことにした。

つーか、学校で会っても無視だったし。

そりゃー鹿本からしたら一クラスメイトでしかないけどさ、あの雨宿りはそれなりに近づけたと思ったんだけどなぁ。

ま、それが鹿本らしいっちゃらしいか・・・。




傘に細心の注意を払いつつ、鹿本の家まで向かう。

バイト先からだと近いんだけど、俺んちからは結構掛かった。


階段を上がると広めのポーチ。
扉の前で深呼吸をすると、インターホンを押す。

音が、部屋で響いているのが分かる。



「・・・・居ないのかな?」


ここに傘を放置するわけにもいかないし、またアレだけの気を使って傘を自宅に持って帰らなきゃいけないのか・・・


と、思ってたらインターホンからプツリと音がした。



『誰』



「あ!あ、あのっ俺っ、あー住田、です。傘返しに・・・来たんだけど・・・」


いないと思い込んでいたせいか、聞こえてきた鹿本の声に心拍が跳ね上がった。


『・・・・。・・・・あぁ、住田?』


「・・・うん」


・・・・絶対、忘れてたっ!
今のは絶対傘貸した事忘れてたっ!
そして俺の事も微妙に忘れてたんじゃないの!?


『入れよ、鍵開いてるから。』


そう言ってインターホンは切れた。




扉を開けると、広めの玄関に、乱雑に置かれた靴。
傘立てには一本も傘が入ってなくて、そりゃあの時貸してもらえないはずだ、と一人納得。

入って直ぐのところに学校の鞄が転がっている。
絶対教科書とか入ってなさそうな、クッタリとしたその鞄を見つめていると、そんな俺の姿に気付いたらしい鹿本が振り向いた。


「上がれよ」

「え?」

傘返して直ぐに帰ろうと思ってたのに・・・

「なにしてんの、早く」

「え、っと、あー・・・傘。」

「そこ突っ込んどいてよ」


えぇ・・・・そんな乱暴には扱えません・・・


とモジモジしている俺を見て、両手で持っていた、いや握り締めていた傘を奪い取ると“ガスッ”と音を立てて傘立てに突っ込んだ。


「わぁっ!傷ついたらどーすんのっ!俺の指がっ!」

「・・・・あ?何言ってんの」

「いや、ほら、壊したりしたらあの怖い人(車しか見てないけど)に、こう・・・やられちゃうって言うか・・・」



「ぷっ、おまっ、・・・くっくっ・・・あーー最高。」


目の前で腹を抱えて笑う鹿本。
一体何が面白かったのか全く分からない。


「やっぱ面白いな、住田。簡単に騙されるのな。気をつけろよ?」

「え?何?」


「あの傘俺の。」


「・・・、・・・・はぁっ!?」


まー上がれよ、と言って腹を抱えながら奥へ入っていく鹿本。


「ちょ!」

慌てて靴を脱ぐと、鹿本が消えた部屋に向かった。







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