鹿本くんと住田くん | ナノ
鹿本くんと住田くん
03
しばらくすれば、遠くから爆音を鳴らして一台の車が目の前に滑るように走りこんできた。
高級車、総スモーク・・・・
・・・こ、怖い
絶対自分からは近づかない、そんな車。
で、これが鹿本の迎えの車に違いない・・・
雨の中、鹿本は車に近寄って助手席の窓を叩くと中に乗っている人間と少し会話を交わして・・・
その姿がなんだかあまりにも自分の生活とかけ離れてて雨に浮くその車と鹿本がドラマのワンシーンのように見えた。
住む世界が違うというのは大げさだけど、いち高校生というにはちょっと違う生活を鹿本が過ごしているのだということが分かる。
俺なんて携帯で車呼びつけることなんてできないから。
ダチだろうと先輩だろうと、そんな相手が居ない。
トランクが開き、そこへ屈んで、そして鹿本が俺の元に帰ってきた。
「ん」
「え?」
差し出されたのは一本の傘。
「使えよ。」
「え?いいの?」
「俺のじゃねぇから返せよ。あいつ怒らせたら怖いからな・・・」
と指したのは車。
えぇぇぇぇぇ!
そんな人の傘、怖くて使えねぇし!
強風で逆に曲がっちゃったら?
俺指落とされたり・・・って事にならないか!?
「こ、怖くて借りれないよ・・・」
「・・・・雨、やまねーぞ?なんなら車で送るか?」
とまた指されたのは目の前の車。
「か、借ります・・・」
「ん。この時間になら家いるから、いつでもいいから返しに来て。ぜってー学校には持ってくんなよ。」
「・・・・わかった」
そういって受け取った黒い傘。
どうせならこれがビニ傘なら良かったのに・・・・
「じゃ、俺行くから。・・・・あー、これも貸してやる」
そう言って鹿本は上着を脱いだ。
「ちょっと濡れてるけど少しは寒さ防げるだろ?」
ふわりと掛けられた上着からはほのかに煙草の匂いと・・・・鹿本の香水の香り。
「あ、あ、ありがと!」
「んー、ちゃんと来いよ、家」
そう言って車に駆け込み乗り込む鹿本。
また爆音を鳴らしながら去っていく車のテールを見つめて、自分の中での鹿本のイメージが一新してしまったことに戸惑いつつ
雨の中、気持ち的に重い傘を差して自宅へ帰った。
END
08.01.11
prev|back|next
[≪
novel]