僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
11
それからと言うもの、僕が先輩と共に過ごす時間というのは増えていった。学校で授業が終わればどこかで落ち合うとか、友達の居ない僕には一人で過ごすか先輩と過ごすかのどちらしかなかった。
先輩と僕との仲を勘ぐる言葉の代りに、先輩との関係を妬んでなのか遠巻きに僕に対する嫌味の声なんかは続いていた。
でも、僕は気にならない。僕には先輩が居る。
ただ一人、僕の味方が傍に居るというだけでずいぶんと心強いものだった。どんな言葉を投げられようとも、どんな目で見られようとも、その全てを切り離す事ができた。
外の熱気を伝えてくるような視界の眩しさ。切り取られた窓に映る空が夏を伝えているのに、教室は快適な空調が保たれていた。
担任の話を流し聞きしながら、僕は夏休みの事で頭が一杯だった。担任が先ほど告げた夏休みの寮の使用についての事。共に配られたプリントに窓から視線を戻して小さく溜息を洩らした。
夏は、最低でも一週間、実家に戻ることになりそうだ。会長が言っていたのは2日程度という事だったのに、今年からはその期間も延びた。その詳しい事が書かれたプリントを小さくたたんで胸のポケットに突っ込んだ。
早い話が、保護者の要望で。息子に少しでも長く会っていたいという事だろうか。海外に飛んだりしている保護者の都合で帰宅の日数は個人で変動があるらしいが、僕にはそんな相談を親にすることも無い。
その一週間を僕はどう過ごすのだろう…。親にはこの旨が通知されているだろうに何の連絡も入らず、もちろん僕からすることも無くて。きっと帰って来ても来なくても、居ても居なくても大差ないということだろう。
僕が帰ったところで、家政婦さんが掃除しに来ている程度で、母くらいは家に居たとしても部屋に篭るであろう自分を想像すると、以前と何も変わらないだろうし、むしろ寮に入った事によって離れた生活から会話を生み出す事の方が難しいかもしれない。
そこの生活には、…先輩が居ない。
メールだけで繋がる日々が続くのだろうか。電話をすれば話をしてくれるだろうか。
会いたいと、言う事が出来れば…会ってくれたりするだろうか。
何気に視線を森岡に向けた。
相変わらず机にうつ伏して寝ているらしくて、先輩との時間が増えてからというもの、初めから僕と先輩とが近づく事を良く思っていない森岡との会話がめっきり減っていた。
お互い自室に篭る事が増えて、部屋で顔を合わせる事も少なくなっていた。
先輩とも森岡とも仲良くしていたいなんていう僕の気持ちはただの都合のいい考えなんだろうか…わがままでしかないのだろうか。
また溜息をついて、森岡のように僕も机にうつ伏した。真っ暗になった視界、さっきまでの眩しい光を遮断して、気持ちのいい空調だけを感じ取った。
諦めれば、良い?…友達と言えるような仲ではない、それでも僕は森岡の優しさを知っているし、心地良いとも思える人だ。
先輩が居る今、両方を…と思ってしまう欲張りな考えを捨ててしまえば――楽だろう。
先輩だけを見ていれば良い、って
本当にそれでいいんだろうか。
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