僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
04






 しばらくして唇を開放された僕は大きく息を吸った。頭がぼんやりしているのはきっと羞恥と上がった体温のせい。さっきまで合わさっていた唇が痺れるようで自分のものじゃないみたいだった。

「俺、同室の森岡 大晴(モリオカ タイセイ)。よろしく」

 彼は、さっきまでの濃厚なキスの事なんてなんでもなかったように、顔色一つ変えずに自己紹介をした。同室と言う事はクラスも一緒のはずだ。だけどこんな眩しい頭を見た記憶がないということは、数個あった空席の一つが彼の席だった、ということだろうか。

「……よ、ろしく」

「じゃ、そう言う事で…」

 と、また彼は僕をベッドに押さえ込むと、首元に顔を埋めようとした。

「ま、待って!どう言う事!?」

「ん?…いや気持良い事しようよ、って事」

「…いや、ちょ、っ、それってどういう…」

「はぁ?セックスに決まってんだろ」

 き、決まってなんか無い…!
 首元に顔を埋めた森岡の唇が肌に触れるのを感じて、慌ててシャツを引っ張り抵抗した。

「ちょっと!ん、あっ!」

 首筋にねっとりとした舌が這い、熱が駆け上がっていく。恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。

「いいだろ?同室だと何かと便利だし…お互い性欲処理でオーケーじゃね?」

「何言って…っ!も、やめ…っ」

「なんで…もったいぶってんの?」

「もったいぶってなんか、無いよっ!」

 頭をあげて、少し離れた森岡を睨みつけた。そんな事でひるむとも思えないけど、少しでも抵抗を見せておかなければどんどんペースを持っていかれそうだったからだ。

「…何、もしかして女とも経験なかったりする?」

「―――っ!」

 カッと顔に熱が溜まるのが自分でも分かった。こんなの、肯定しているのと同じじゃないか…。
 森岡はそんな僕の姿を見て笑った。そしてまた僕との距離を詰めると、森岡の唇が触れるか触れないかの至近距離で森岡の息が僕の肌をくすぐっていく。

「じゃぁ…教えてやるって事でいいんじゃないの。ま、間違いなくお前が下だけどな」

「…下って…なに、」

「あぁ、名前は?なんて言うの?」

「え、あ…田嶋。田嶋 椿…」

「椿?…オーケー」

 そう言うと、森岡は僕のベルトに手を掛けた。

「なにする・・・!?や、やめてやめてやめて」

「なんで。自慰するだろ?同じことを他人にやられるだけでまた違う快感だって。ましてや男のなんてツボ分かってるからさ、俺に任せろよ」

「い、要らない・・・そんなの頼まないよっ・・・っあ!」

 弛んだスラックスから入り込んだ手は、なんの躊躇いもなく、トランクスの上から萎えたそれに触れた。
 恥ずかしくって、恥ずかしくって・・・頭に血が上りクラクラする。

「―――んっ」

 森岡の手つきは巧妙で、また自分の意思ではない動きに、僕のものが少しずつ芯を持ち始めるのが分かって、思わず震える両手で顔を隠した。

「大丈夫、寂しさも紛れるから。やろうぜ、セックス。俺に任せろ・・・」


 寂しさ?

 森岡の手の温もりを肌に感じて、ぼんやりした視界とぼんやりした頭で森岡の言葉を反芻していく。
 寂しさが、紛れる?自分の中に沁みていく森岡の言葉に、抵抗する力をそっと抜いた。

 強張っていた体の力が抜けたことが森岡にも伝わったのか、一瞬驚いたように僕を見たけど、すぐにニヤリとあの赤い口で笑って、そのまま開いた口に僕のモノが吸い込まれていった。

 触れ合う肌は気持ちいい。肌を撫でられるだけで、触れてもらえるだけで、どこか満たされたような気持ちにもなる。これが、紛れている証拠だろうか?もっと触れてもらえれば、どんどん僕は満たされる?

 温かかった。赤い切れ目に包まれる感覚に気持ちよくなってしまって、もう森岡の唇がなすままに流されてしまえばいいとさえ思えた。そんな諦めを実感して、苦笑を洩らした。

 初めから全て…、諦めてしまえば。

楽だったのかもしれない。





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