僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
02





「へぇ、なかなか・・・」

「ですよね、このアルバムは僕も好きです」

 僕が先輩の部屋に来るたびに持ち込んでいるCDは部屋のローテーブルに山積みになっていた。

 始めは部屋で喋っているだけだったけど、先輩の部屋でCDを見つけてから僕が持っているCDの話へとなり、貸し借りに発展した。

「コンサートとか、ライブとか行ったりしてた?」

「あ…、いいえ、行った事無いんです」

 僕の周りではコンサートの話とか出た事もあるけど、いつだってその輪の中には僕は居なかったし…多分あの頃、中学の頃の友達は僕がここまでCDを持っていることも知らないだろう。遊びに来たって収納されたCDを目にすることも無かった。

 そんな僕の趣味や嗜好を、あの頃の友達に話す機会なんてものは無かった。

「椿ちゃん?」

「あ、ごめんなさい、ぼーっとして」

「いや、考え事?何かあるなら言えよ?」

「いえ・・・なにも。ごめんなさい」

「また謝ってばっかり」

 頬に触れた先輩の手は暖かくって、ついついその掌に頬を寄せた。少し驚いたような表情をした先輩を見て、調子に乗りすぎたのかとも心配したけど、直ぐに困ったように微笑んだ先輩の顔に胸をなでおろした。

 少しずつ、少しずつ、僕は先輩に寄りかかっていけばいい。

 僕を、選んでくれた先輩。












 先輩の部屋から戻ると風呂上がりらしい森岡がリビングにあるソファでくつろいでいた。

「……」

 無言で視線を合わせて、僕は直ぐに森岡の言いたい事も分かったけれど、森岡が口を開くのを待った。森岡の視線が上から下まで舐めるように僕を見る。

「…付き合うことにしたって?」

「う、ん…」

 付き合うことになったという事実はそれはもう驚くほどの速さで人の耳に入っていった。それまでの隙を見れば僕達の関係を問いただそうとしていた雰囲気は一変して遠巻きに僕と先輩を噂するものに変わった。

「何で」

「何でって…」

「好きなのか、薮内の事。アイツにそういう感情が湧いたのか?アイツに何か言われて仕方なくとか…そんなんじゃないのか」



「―…、ち、違うよッ。先輩は優しい。ちゃんと…ちゃんと僕の事、見てくれるんだ」


 好きかと聞かれると即答は出来ない。

 でも、好きになれそうな気がする、好きになりたいって思ってる。


「騙されてないか」

「酷い、・・・森岡はなんでそんな風に先輩を見るんだよ?僕は・・・僕は先輩に応えたいよ。僕を見てくれる先輩の事ちゃんと、見たい」


 そんな言葉しかくれない森岡に怒りよりも悲しさの方が強かった。

 森岡は何をそこまで嫌うのか、先輩を。





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