僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
01







 無くなる事が怖い。


 そこにあるものがなくなるなんて考えたくもない。



 繋ぎ止めておく術も知らない。

 どうすれば傍に居てもらえるのか、どうすればその気持ちが外に向かないのか。


 どうすれば

 愛してもらえるのか

 どうすれば、愛し続けてもらえるのか―…












「先輩っ、今度街に行くって・・・むん」

 むにっ、と唇に押し付けられた指に驚いて視線を薮内先輩に絡めた。僕の顔を見て、そして綻ばせるその笑顔は僕の気持ちも穏やかにしてくれるものだった。

「椿ちゃん、先輩じゃないって言ったろ?」

「あ・・・詠仁、さん」

 先輩とちゃんとした"お付き合い"が始まって一週間が経った。何が変わったわけではない、今まで通りの、時間があれば一緒に居る関係。ただそれだけだけど、毎日繰り返されるそれは僕にとって大きな事だった。


「で?街に行くけど、なに」

「あの、あのCDショップ寄ってもらって良いですか?」

「良いよ。んな事いちいち訊かなくても・・・」

 僕には付き合う二人の間で何が当たり前か分からない。先輩はいつも当たり前が何かを教えてくれて、僕がその対象で良いのだと感じさせてくれる。


「何か欲しいのあるのか?」

「ううん、新譜チェックしたいだけです…」

「そう。何か欲しい物ってないの?」

「え?…チェックして何かあれば買いますけど欲しいものって決まってませんよ」

「じゃなくって、服とか、時計とか、ないの」

「・・・・どれも足りてますけど」

 服なんて寮に入っていれば部屋着と制服のどちらかで過ごすばかりでお洒落の欠片なんてない。いかに過ごしやすい服装でいるかと言ったところだ。出かけるにしても頻繁にあるわけじゃない。


「そうじゃなくって」

「え?」

「俺から何か欲しくないか、って事」

「え、…えっ?」

「付き合い始めたのに椿ちゃん欲が無いって言うか。なんかあるだろ?」

「そ、そんな、・・・女の子みたいな事。僕は何も要らないですよっ」

「そう?なんか擦れてないよね椿ちゃん。俺なんて付き合う奴等に貢がされてきたからさ、逆に新鮮だわ」


 金持ちの人たちの付き合いってそういうもんなんだろう。僕の兄だって部屋には高価な物が置かれている。母だって金に糸目はつけない買い物を好む。
 そんな人たちの中で過ごしたせいか、僕は逆に大して必要でもない物に興味が湧かない。僕が浪費していくのはCDくらいだ。


「変、ですか?」

「・・・全然。おかしいのはそんな考えの金持ちなんじゃないか?」

 貢がされてきたと言ったそんな先輩の口から、客観的に揶揄するように放ったその言い回しなんとなく違和感を感じた。

 僕が一般的にそんな金持ちの息子なのに欲が無いのかと言いたいのか。先輩自身もそんな金持ちの息子だから麻痺しているんだと言いたかったのか。






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