僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
23






“夕食、いつものトコに居なかったけど食べた?”


 降り止まない雨と、たまに光る雷。真っ暗になった部屋で考えてた。

 メールの着信を知らせるランプがぼんやり光って、手を伸ばし携帯を開くと画面が眩しくて目を細めた。


“先輩、今日、談話室来ますか?”


 送信ボタンを押して、返事を待つ。

 考えた所で結果は出ない、先輩なら答えをくれる?いや、その時点で僕の欲しい先輩からの答えは分かりきっているのに、ずるいな、僕は。

 
“良いよ、行く”


 先輩からのメールを確認して、それから部屋を出た。






 談話室で、先輩がいつも僕を待っているように、僕も窓際で外を眺めるように先輩を待っていた。綺麗に整っている中庭が雨に濡れていた。


「椿ちゃん」

 いつもと変わらない先輩の姿。

「椿ちゃんから誘ってくれるのって珍しー。どうしたの、って言うのは変か。いつでも呼んでくれたら良いんだし」

 手を取り、空いているソファに座ると、先輩が今日食べた夕食の内容を語り始めた。僕は握られた手を見つめながらその話に相槌もせず聞いていた。

「椿ちゃん、」

「・・・あ、はい?」

「何があった?言ってみなって」

 

 僕が口を開くまでの間を、先輩はじっと待っていてくれた。急かすわけでもなく、ただひたすら手を握って。


「先輩、僕が・・・先輩の傍に居て本当にいいんですか?め、迷惑に、なってませんか?」

 少し驚いたように、先輩は僕を見た。

「あ、あの、色んな人に、それこそ、知らない人に・・・付き合ってるのかって聞かれて、きっと先輩も同じくらい人に聞かれてるんじゃないかって・・・」

「椿ちゃんは・・・それが迷惑なんだ?」

「迷惑っていうか・・・」

「じゃぁ、俺と噂になってるのが嫌?」

「そんな!そんな事無いです、そんなんじゃなくて・・・その、付き合ってないのに噂はそんなのだし、違うって言う度に・・・なんていうか先輩に申し訳なくて」

 しばらく考えて、先輩はぎゅっと手の力を強めて僕に言った。



「じゃぁ、やめようか」



 僕の欲しかった言葉とは、全く逆の事を。




「せ、んぱ・・・」

「やめにしよう、そんなふうに椿ちゃんが俺の事気にして、過ごしにくかったり考え込んだりするんなら。・・・俺こそ、椿ちゃんの迷惑にしかなってないし」


 違うのに、そんな事、無いのに。


 さっきまで強いほど握られていた手は、簡単に解れていく。先輩はソファから立ち上がり、僕に背を向けた。

「先輩っ」

「椿ちゃんは、これでいいんだろ?こういうことだろ?」

「ち、違います・・・、そうじゃなくって、その、・・・っ」


 背を向けていた先輩が、座っている僕の前にひざまずいて僕を覗き込んで来る。優しい笑顔で、包むように言葉を発する。

「椿ちゃんの考え、椿ちゃんの口から聞きたいけど?俺はエスパーでもなんでもない、普通の人間だ。相手の考えてる事なんてわかんねー。・・・そうだろ?」

「・・・・はい」


「で?」


 先輩は、ひざまずいたまま、僕に問いかける。


「え、っと・・・その、僕が傍に居て、いいんですか」

「いいよ、こっちからお願いした事だし」

「あの、その、僕、よくわからなくて。ただこんなままって先輩に申し訳なくて、先輩の気持ちに・・・」

 もてあそぶようなことして、と相川に言われてその通りだと思った。先輩の気持ちを僕は都合の良いようにもてあそんでいるんだ。

「俺の気持ちはいいよ。・・・逆に聞くけど、椿ちゃんは俺に傍に居て欲しくない?俺が頼んでるから、仕方なく居てくれてるだけ?」





「・・・、違います。多分、僕も・・・先輩に傍に居て欲し」


 その言葉を待っていたというように、抱き寄せられて言葉は先輩の口に飲み込まれていく。

 何度も、何度も、重ねられる唇に、僕は答えた。


「・・・んっ」

「じゃ、とりあえず付き合ってみよう」


 頷くと、また先輩が優しいキスをくれた。


 僕は、僕の気持ちは分からないけど、

 僕の事思ってくれる先輩に、答えていきたいと思った。傍に居てくれというのなら、直ぐ傍に。出来る限りの術で。



 僕には、彼しか居ないんだ、と。






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