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僕をよろしく
21






 早朝から降り出した雨は昼を過ぎても止む事が無かった。午後一番からの体育の授業は必然的に体育館での授業となり、予定変更ということが生徒の気持を浮き足立たせているのか、みんな変に楽しそうにバスケットボールをついていた。

 2クラス合同で行う体育は、いつもの事ならがら皆がもう知った顔だということもあり毎回賑やかなものだった。そんな中、体育館に響くボールの音と雨の音、開いた扉から入り込んでくる湿気を僕は隅で体育座りで感じていた。

 先生も特に堅苦しい事をするわけでもなく、クラス対抗のゲームが始まる所だった。僕はその姿を眺めていた。

 軽いゲームのはずが、いざ始まると白熱した試合になっていくのが分かる。僕の出るチームは最後のゲームだった事もあって、その頃にはもっと盛り上がってるかもしれないと思うと、運動も大して出来ない僕は足手まといにしかならないことは分かっていた。
 賑わう体育館とは対照的に、暗く重い雨雲に僕の気持ちも同化していくようだった。


 音を立てて、僕の隣に座り込んでくる人が居て驚いて視線を向けた。

「あーっち、汗と湿気って最悪だな」

 直ぐ隣に、近いと思えるくらい傍に座られて、彼から運動直後の熱気が漂ってくる。

「・・・瀬川」

 慌てて相川に視線を送った。相川はこっちに背を向けてゲームに夢中になりクラスメイトと盛り上がっていたけど、きっとしばらくすれば瀬川を探すに違いない。また痛い視線を受ける前に、瀬川にはこの場を去って欲しいけど・・・そんな事言い出せるわけもなくて、僕が退くべきかと腰を上げようとした。

「付き合ってんの?薮内先輩と」

 そんな瀬川の言葉に力が抜けるようだった。瀬川もまた、気になるんだ・・・。

「別に。付き合ってるわけじゃないよ。皆一緒に居るだけで付き合ってるって思うものなの?」

「あー、そうか、うん。この高校って当たり前と言うか・・・中学の頃からそういった噂は流れてくるもんだったしな。どうしても直結したがるというか・・・田嶋だからなおさらかも」

「そうなんだ。・・・・、僕だからって、なに?」

「田嶋、そういうのなさそうっていうか・・・いや、なんていうか上級生と関わりなさそうなのに薮内先輩とってのが不思議というか、そうそう、こないだサボってたろ?二人で外に向かっていくの見てたんだ」

「・・・サボったのは、あれは・・・・どちらかと言うと先輩が僕に付き合ってくれたようなもんで、・・・あ、僕次出るから、行くね」

 瀬川との話を終わらせて、コートに入ると目の前に立つ対戦相手のチームの中に相川を見つけた。そして彼の視線がまた僕を捕らえている事に気付いて、さっきまでの瀬川との姿を見られていたのかもしれないと思った。


 笛の音が響いてゲームが始まると、僕は邪魔にならないようにとコートの隅へと寄った。ボールの行く先を追いかけてみても、その位置から大して動く事はせず。

 敵チームのゴール下で弾かれたボールを追いかけているクラスメイトから「田嶋!」と呼ばれ、直後にボールが僕の方へ飛んできた。慌ててそれを受け取ると同時に、僕の方へ向かってくる人の波。慌てて一番近くに走り込んできたクラスメイトに受けたボールを直ぐにパスする。

 無事に渡せた事でホッとした直後、背中に衝撃を受けてコートに倒れこんだ。

「わりぃ、勢い余った」

 ぶつかってきたクラスメイトは僕の手を引いて立たせるとまたボールを追いかけてプレイに戻っていく。

 ボールを追いかけて右へ左へと流れる人の動き。あともう少しでゲームも終わりかと言うときに、また僕の元へボールが転がって来た。僕の名を呼ぶ声と、ボールを奪いに来る人影と。

「――――っぅ」

 数名の人に紛れて、故意に出された肘をわき腹で受けた。広がる痛みにうめきながら力に飲まれるように倒れ込んだ。


「大丈夫か!」

 口々に発せられた言葉は僕に向けられているものじゃなくて。

「あ、相川・・・」

 僕と絡まるように倒れた相川は、僕の足に足を絡ませるような形で、上半身は床に張り付いたままだった。

「お・・・、おい保健室!」

 ざわつく生徒達を掻き分けて瀬川がそばまでやってきた。僕が相川を押し退けようとするのを制して、そっと瀬川が相川を抱きかかえた。

「壱智!」

「瀬川、動かすな。そのまま保健室だ。田嶋も一応保健室に行って見てもらえ」

「僕はどこも・・・」

「保健先生に状況説明してくれないか」

 先生にそう言われてしまえば、行かないわけに行かない。相川を抱えて立ち上がった瀬川の後ろを付いて体育館を出る。


 雨は酷くなるばかりで、いつの間にか雷まで鳴っていた。その中を静かに保健室に向かう。瀬川の後ろで、そっと痛むわき腹を押さえながら。






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