僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
19
授業の始まる時間なのに、一向にざわつきが治まらない教室。好き勝手座席を移動して、朝からお菓子を広げてみたり、携帯開いてメール打つ者が居たり・・・。
「一時間目から自習ってラッキー」
「でもこれだけプリント用意されてたらラッキーとも言えねぇな・・・」
ばさりと机に放り出されたのは十枚ほどのプリント。全てにびっしりと問題が書かれていた。
「だからさ、皓が最初から問題解いて、んで、僕が後ろから解く、で半分の所で答え写し合えば時間短縮!」
「つって、壱智!お前数学全くダメだろ。絶対一人でやった方が間違い少ない気がする・・・」
「ひどっ」
「ん、あ?」
「・・・・どうしたの」
ふと顔を上げた皓につられるように窓の外に視線を送る。そこには、授業を受けるとは思えない、学校の外へと向かう二つの姿があった。
「・・・・田嶋だ」
「だね。サボるのかな?田嶋の手引っ張ってるのは・・・二年の薮内先輩じゃない?」
「どこ行くんだ?ってかあの二人知り合いなのか?」
「・・・・僕に聞かれても、」
門を出て行く二つの影が見えなくなるまで追いかけている皓の横顔を見て、胸がざわついた。
「皓、やけに田嶋の事・・・構うよね?」
「そうか?そうでもないだろ」
「田嶋のどこに惹かれるの?」
「はぁっ!?そんなんじゃねーよ」
「だって部屋に呼んだり・・・、見つけたら絶対声かけたりしてるよ。なんか皓らしくないよね」
「たまたまだろ?」
「皓っ!」
くっと、熱くなる思考をそこで留めた。これ以上皓に何を言った所で皓には何も響かないし、声を荒げた所で周りの注目を集めるだけだと思った。
「どうした壱智?」
「なんでもないよっ!僕一人でプリントするからっ、皓が見せろって言ったって見せてやんないからね!」
「ん?何怒ってんだよ」
「怒ってない、呆れてるんだってば」
皓は気付いてないのかもしれない、自分の中に入ってきている田嶋に。今までだってそうだ、いつだってこれといったものに執着しなくって、その場が楽しければいいってタイプの皓。
唯一、僕だけはずっと傍に居れる存在だと思ってる。たとえ田嶋が今より近い存在になったって、絶対・・・。
音をたてて自分の席に座ると、目の前にあるプリントに視線を下ろした。全く解ける気がしない数式と、学校を抜け出す田嶋の後姿を思い出してキュッと唇を噛んだ。
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