僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
03
体育館で始まった始業式は、定番ともいえる長い理理事長の話が続いていて、周りも寝ている生徒が殆どだった。
それなのに、理事長の話が終わりたった一人の人物が壇上に上がろうとした瞬間から周りの空気が明らかに変わった。
その人物が壇上で言葉を発しようとした時には周りが息を飲むのが分かり、一体どういうことなのだろうかと思ったけど、それは次の瞬間に僕も体験する事となった。
僕の中で、何かがはじけるようだった。
その声を聞いた瞬間に、血が騒ぐような、体の中から熱が湧き上がるような、引き込まれる強い強い、強い、魅力。
周りの生徒が口々に小さく、それでも抑えきれないとばかりに歓喜の声を上げる。
彼は生徒会会長、3年生の織田 遥人(オダ ハルト)という人物だった。それはまさしく、何かの絵本の中に出てきそうな王子様、ヒーロー。
一瞬で人を惹き付けることの出来る人間。
それが生徒会長というのだから、成るべくしてそこに立っているのが伺える。
僕は彼の何も知らないのに、彼の言葉、声、立ち振る舞い、その全てに魅了され、僕とは雲泥の差だということをまざまざと感じさせる。
足元に及ぶ事も、近寄る事さえきっと出来ない。だからこそそんな劣等感に自分には持ってないモノに、一瞬にして感情が昂ぶったのだろう。
挨拶がとっくに終わっても頭の中では何度も何度も織田生徒会長の声が渦巻いていた。
◇
始業式を終えて、寮のへと戻った。
学校から遼までは簡単な一本道で繋がっており、学校を出るとすぐに寮の建物が見え、外観はとても綺麗だ。一見何か公共の施設かと思わせるような建物だった。
部屋は2LDKの造りになっており、共有のリビングの先に部屋が2つに分かれていて左が僕の部屋だった。お金持ちの学校だから一人一部屋のトイレ・風呂付き・・・なんて想像をしていたけれど。
鍵は共有の部分にはついておらず、盗難などは一番にルームメイトが疑われることもあり、あえての防犯と強調を養うという意味での二人一部屋ということらしい。
建物内の最上階に大浴場、各階にはレストルームドレッサーが設備されているが、幸い部屋自体にもトイレと風呂は備えてあったので助かった。
部屋に戻ってすぐに、同室の生徒が気になり、そっと右側の部屋をノックする。
一向に返事が返ってこないということは、まだ帰って来ていないということだろう。そのうち嫌でも顔を合わせることになるのだから、焦る事は何一つないと思い、明日の準備でもしようとすぐに自分の部屋へ足を向けた。
昨日片付けた自分の荷物は量的にはとても少ないものだ。備え付けのクローゼットや机、棚に持ち物をしまうだけだった。 飾り気のない、物の少ない部屋は家での自室と大差なかった。
ベッドに横になると、昨日の慌てた入寮とか、気分的に疲れた今日一日を思い返し、そっと目を閉じた。ずいぶん気を張っていたのだろう、ベットに沈み込む体の重さを感じてあっという間に眠りに吸い込まれていくのが自分でも感じ取れた。
何かが自分に触れる感触に驚き、パチリと目を開いた。
視界に飛び込んできたのは眩しい金色。
「……な、なに!?」
軽く頭を動かしてみると、同じ制服を着た金髪の人が自分の上に馬乗りになっていた。
「だ、誰っ…」
抵抗にしてはか細い音にならない言葉にしかならなかった。
切れ長の鋭い目と、笑ったときに引き上がった赤い唇が印象的だった。その彼は何も言うことなく、また視線を落として僕のシャツに手を掛けた。
何をされるのか、という恐怖と不安。抵抗しようと手を伸ばしたところだった。
その瞬間、胸元で引っ張られる衝撃があり、目の前でシャツが一瞬ではだけ飛んだボタンがパチパチと床や壁にぶつかる音に唖然となった。
慌てて手をシャツに掛けて、彼の手に抵抗する。なんて乱暴なんだ!
「ちょ、な、な・・・何!?」
慌てる僕を全く気にも留めず、彼の手は開いたシャツから滑り込み、なぞるように肌の上を滑っていく。ニヤリと笑い、そのまま屈んだ彼は胸の辺りに唇を落とした。
しっとりとした唇が肌に重なり、触れる指の繊細な動きに、ゾワリと腰のあたりから何かが駆け上がる。
湿った音が耳に付いた。
「ま、待って・・・!」
ぐいっと彼の頭を支え上げても、簡単に腕を取られて彼はまた僕に顔を近づけた。からかうような瞳で笑って、頬に柔らかい唇の感触がしたと思えば、それは徐々に僕の唇へと近づいてくる。
「っ!・・・やっ、やめっ――」
抵抗する僕の手が、彼の耳にかかり、山のようにつけられたビアスを指先に感じた。ひやりとした金属の冷たさに慌てて手を引いた。
肩に手を置いて押し返そうとしても、体重をかけられてはなかなか押し返す事も出来なくて、されるがまま僕は唇をむさぼられた。
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