僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
13






 自分の周りを囲むように積まれたCD。

 ベッドに頭を預けて目を閉じると、流れる音の世界や歌詞の世界へと没頭する。そうやってずっと、ずっと・・・逃げてきた。



 僕は、僕から逃げたいんだ。


 ずっと逃げ続けているのに逃げ切ることは出来ない、永遠に続く。永遠に・・・。


 いつかは、と何度も願って、そして今だってまだ未来に期待を抱いている。僕を必要としてくれる人が現れるんじゃないかって。

 父さんにいつか認めてもらえるんじゃないかって、母さんの優しい笑顔、僕にも向けてもらえるんじゃないかって。兄さんたちと一緒に笑っていられる日が来るって。そして、皆が家に居て・・・挨拶を交わして過ごせる時が来るって。


 そんな未来を描いては時間が経つのを待っている。いつか叶う時が来るだろうって。

 現実には僕のことを見てみぬフリする僕がいるだけなのに。


 本当はいじめられてるんだよって、僕が居なくたって誰も気にも留めないって、存在が邪魔になることのほうが多いんだって・・・

 本当は、殴られ蹴られることだって、罵られることだって・・・・


 痛いって


 知ってるのに。

 
 僕は全てから逃げる。



 苦痛を口にしたって、止むことはなくて。助けを求めたくても僕の傍には誰も居なくて。笑えると思った場所はニセモノだった。

 新しい環境も、今までと何も変わらない。


 なら、僕はどこまでも逃げようじゃないか。その先に終わりがあるんなら、その場所まで。

 僕に出来ることがそれだけなら、し続ければいいんだ。







 眠りについては黒い腕が僕を掴み上げる。黒い腕が僕を掴むたびに、汗がにじみ出て、それは恐怖だった。

 その黒い腕が、いつからか僕の腕になっていた。

 僕の腕が僕を捕まえて、何度も何度も現実を見ろと引き上げようとする・・・・恐怖。
 その度に目覚めてを繰り返している間に、朝になっていた。



 
 朝食を食べる為に食堂へ向かおうと自室を出ると、嫌でも目に入る森岡の部屋の扉。きっとそこに森岡はいないんだろう。
 扉の向こうに人がいないなんて事は、人の気配のない家で育ってきた僕には当たり前の事なのに。何故だか今は気配だけでいい、森岡じゃなくても良いから同じ部屋に誰かの存在を感じていたかった。
 
 

 食堂が賑わうにもまだ早い時間帯、トーストとオムレツを少しずつ口に運んでいると、朝の日差しを遮るように影が落ちてきた。


「おはよ、早いね」

「・・・・おはようございます」

 頭を上げると、さわやかな笑顔で立つ戸口先輩の姿がそこにあった。






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