僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
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「楽しそうですね、先輩方」



 少し遠くから聞こえた声は。


「森岡大晴・・・・」

「残念だか仲間には入れれないぜ?さっさと去れよ。お前は相手に困ってないだろ」

 先輩達の動きが強張ったのは一瞬だけで、森岡と分かればその体から力が抜けたのが僕にも伝わった。


「だからってほっとけないんすよ。そいつ俺の同室だし・・・」

「じゃあ男知ってるって事だな?そりゃ楽だ。」

「・・・それに薮内先輩が最近目ぇつけるみたいですよ?あの人がまだ手を出してない物、食って大丈夫なんスか?」

「マジか」

「まぁ・・・本気が遊びか俺にはわかんねーケド・・・な?」

 そう言って投げ掛けてくる森岡の視線は何を考えているのか分からなかった。
 哀れみでも、怒りでもない。
 面白い物を見つけたとでも思っているのだろうか。

 
「くそっ、お前薮内のもんだからって、調子乗って首突っ込むなよ。次はないからな」

 先輩は僕の胸倉を掴み上げ、そう吐き捨てると手を離した。どさりと地面に投げ出されて、去っていく先輩達の足の下でクシャリとつぶれた草を見つめた。

 さっきまではピンと立っていた草が、折れて傷を作りそこに横たわっていた。





「服、整えろよ」

「うん」

「お前・・・俺が通りかからなかったらどうなってたか分かってんのか?」

「うん。ありがとう」

 森岡・・・

「叫んで、暴れて、抵抗しろよ」

「う、ん・・・」

 森岡―・・・



「それともされるがままだった、って事はその気になってたのか」


「・・・・」


 伸ばしかけた手は、行き場を失ってただ地面の土を感じるだけ。少し冷たい、それ。



「早くしろよ。行くぞ」


「も、りおか。・・・向こう側に、佐古が、意識飛ばしてて」


 そこまで言うと、森岡は佐古の方へと向かった。その姿を見て、僕は服装を整えるとボタンの飛んだシャツの前を握り締めた。土にまみれた僕の手はシャツをまた汚した。




「椿、行くぞ」

 戻ってきた森岡の腕の中には佐古が抱えられていて。相変わらず森岡の表情から感情を伺う事は出来なかったけど、きっと穏やかではないだろう。


「・・・僕はいいから」

「何言ってんだ」

「いいから、ほっといて・・・」

「一人で戻れるのか」

 小さく頷くと、それを一目して森岡がその場から去っていくのが分かった。


 大丈夫。

 何とかなる。


 暴力の形が変わっただけだ、何より触られただけで何も受け入れていないんだから・・・。


 こんなことで傷ついてなんか、ない



 


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