僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
01
連休明けたての寮は騒がしかった。
それでも全生徒が揃ったのは明けて3日目くらいだろうと思う。聞こえてくる会話でまだ海外にいるという人も居るくらいだったから。
土産話で寮、教室が持ちきりな中、僕はだんだんと眩しく感じる空を見ていた。
少しずつ、少しずつ、クラスの皆とは会話が増えてはいたけど・・・やっぱり友達といえる人はまだ居なくて。でもこのままでも別にいいかな、と思えるようになってきた。
一人で過ごす為の時間の使い方は昔から知っていたし、変に干渉されることも無い。時折話しかけてくれる人が居ればそれで良いじゃないかと思う。
休みが明けても、食堂の時間が合えば薮内先輩は僕の隣に座ってくれて、他愛のない会話をする。そんな僕らを珍しそうに見てくる生徒も居て、居心地の悪さを感じていたのだけど、薮内先輩は全く気にする様子もなく、僕に笑いかけてくれる。
そんな仕草を見ているうちに僕までその視線を気にすることもなくなったし、それよりも薮内先輩との会話に夢中になるばかりだった。
「お前・・・」
見上げると部屋に入って直ぐのところで僕を見て“げんなり”な顔をした森岡が立っていた。
「あ、お帰り森岡」
最近の森岡は僕を見るとこんな顔をする。
その原因も分かってるんだけど・・・・。
「椿・・・太るぞ。」
「え、そうかな?太った?僕・・・」
どこかふっくらしてきたのだろうか、と自分の体を見渡してみる。
「そりゃなー、毎日食後にココア飲んで、甘いもん食ってたらどうしたって太るに決まってる。」
森岡の“げんなり”の原因はこれだって僕も知ってる。きっと森岡は甘いものが苦手なんだろう。でも僕が食後にココア飲んで、甘いもの食べながらリビングでくつろいでなんかするから、その香りに姿に“げんなり”しているみたいだった。
休み明けで帰ってきた森岡が扉を開けたときも僕はココアと会長から貰ったシュークリームを頬張っていたところだった。
確かあの時の視線も同じような・・・いや、もう少しマシだったかな?
会長から貰ったシュークリームがあまりにも美味しくて、その時の幸せな気分を味わっていたいと思ってそれからは何か甘いものを常備するようになってしまった。
「太るかな?・・・少し控えようかなぁ。」
「いや、椿は細すぎ。太ったくらいが心地良いけどな、ほどほどにしろよ・・・」
“心地いい”の指すところが分かったけど、あえて触れなかった。そんな抱き合うような関係でもないのに?と卑屈な考えが湧いたけど、それにさえも蓋をした。
「それよりも、椿・・・・2年の薮内と知り合いだったのか」
「え?・・・薮内先輩?・・・うん、この連休に親しくなって・・・せ、先輩もずっと寮だったから話するようになって・・・」
探るような森岡の視線に、思わず言葉が詰まった。
「も、森岡は知って・・・るんだね、先輩の事。同じ中学だって聞いた。」
「―・・・あぁ。まぁな。」
「仲いいの?」
「全く。存在を知ったときからお互い犬猿の仲って言えるくらいだ。」
何かを思い出したのか、森岡の顔が険しくなる。
「そ、そうなんだ。でも・・・悪い人じゃないよ?先輩。」
「お前が何を知ってるんだ?」
「え?」
「何にも知らず、のこのこと先輩に媚売って楽しいか?」
媚売って―・・・?
カッと目元が熱くなるのが分かった。
なんで、森岡にそんな風に言われなきゃいけないんだ。森岡はこの休みの間の僕を知りもしないで、そんな先輩と仲が良いわけでもないのに・・・。
何より、森岡にそんなことを言われて「悲しい」という感情が僕の中を駆け巡った。
媚、売ってるように見えたんだ、と。
半分冷めた僕が脳内で語りかける。
飲みかけのココアをキッチンに持っていき、流す。
排水溝に流れていく茶色い液体を見ながら水道水を勢いよく流しかけた。
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