僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
28






 街のざわつきと雑踏、久々の賑やかな雰囲気が心地よかった。

 ついこの間まで、友達とこうやって買い物したり、食事したりしていたのに。中身がたとえ僕のお金目当てだったとしても、ちゃんと皆遊んでくれたし、僕はそれなりに楽しかった。あの頃に戻りたいなんて・・・思わないけど、あの時みたいに・・・、それ以上に楽しく誰かと過ごす事が出来れば良いなと思う。


 本屋に入って音楽雑誌を立ち読みして、ちょっと気になる小説を手に取った。
 会長から借りた小説もまだ数ページしか読んでいないけど、この休みの間ずっと寮にいることを考えればあっという間に読みきってしまいそうだったから暇つぶしになるようならと買っておくことにした。

 その次はCDを見に店に入った。
 視聴のCDを聞き漁って、新譜をチェックして・・・ここでもCDを3枚買った。定期的に街に出るようにしておかないと、CDなんてどんどん出てきてしまう。ネットなんかで購入してもいいけど、視聴して買うのが好きだった。

 CD屋を出て、時刻を見れば昼過ぎで、店も気がつけば混んでいた。そんな中、一人で食事をするのはなんだか恥ずかしかったから、カフェでコーヒーを飲むことにする。連休と言うこともあって、女性同士の客が多かったりしたが、 これくらいなら一人でも大丈夫・・・。

 注文してテラスに座ると買った小説を取り出し捲る。

 本気で読むつもりはなかったけれど一人で過ごすテラスでは何かしていないと居たたまれないような気持になる。

 少し苦めのコーヒーを飲みながら思い出したのは瀬川に淹れてもらった甘いココア。瀬川と相川のキッチンは食器も揃っていて、きっとどちらかが料理をしたりするんだろう。

 ・・・・森岡も、キッチンには数個の食器やコーヒーの粉や砂糖くらいは置いていたようだった。そう思えば、僕も部屋でココアが飲みたくなって、この後は雑貨屋でマグカップを買って、スーパーでココアの粉を買って帰ろうと思った。
 部屋に甘いココアの香りが漂う事を想像したら、なんだか嬉しくなって、残りわずかになったコーヒーを流し込んだ。





 カフェを後にして、次ぎに向かったのは雑貨やキッチン用品を置いてあるお店。そこで自分用にマグカップを探していた。一つ選ぶのに、かなりの時間を掛けてしまって優柔不断な自分に改めてため息。
 ベージュの物にしようか、真っ白なものにしようか。
散々悩んで・・・・真っ白のものを選んだ。

 なのに。その僕の選んだ白いマグカップは在庫が無いと言われて、仕方なくベージュの方を買って帰ることにした。月末に入荷しますと言われたけど、また月末に街に出るかどうかは分からなかったし、初めからベージュと悩んでいたのだから、どちらかが手に入れば良い。
 そう思って会計を済ませたのだけど・・・・

 きっと、本当に自分の欲しい物を手に入れる人はこういうところでも妥協はしないんだろうな、とぼんやり思ってからはなんだか気持も少し沈んだ。たかが買い物。たかがマグカップ。
 でもやっぱり僕は、と思ってしまう。
 物事一つに熱くなれないタイプなんだろう、と。


 ショッピングセンターを出て、少し歩いたところにある店にココアを買いに行こうと足を進めた。

 人ごみをぶつからないように避けながら歩いていると、どこからか聞いた事のある声を耳にして顔を上げた。



「・・・・佐古?」

 見ると少し先の交差点に佐古が居た。信号待ちの人ごみから数歩離れた所に。


「嫌です・・・やめてください。」

 静かに言葉を発しているけど、相当迷惑そうな顔をしていた。

 佐古の両脇に男性が二人。
 片方は佐古の腕に自分の腕を絡ませ、もう一人は佐古の肩に腕を回していた。

 佐古が断ってもその腕は緩まる事がない。

「ちょっと、ほんと僕・・・急いでるんです。」

「一瞬だけだって、ね、お茶だけ。付き合ってよ〜」

 声は静かだけど、身をよじるその動きは大きくなってきて、両脇の二人はそれに動じず、佐古の言葉を聞いているくせに、佐古を離そうとしない。


 どうしよう。


 周りを見渡しても、気付いていない人、気付いているけど何も言わないで少し視線を送りながらも通り過ぎていく人。

 迷惑がっているんだから、助けても大丈夫だよね?
 誰も助けなかったら、急いでいるといった佐古はいつまで経ってもここから動けないだろうし。

 少しの間、自問自答したあと、意を決して佐古に近づいた。

 後ろから、佐古の肩に回されていた腕を取って。


「・・・あ、のっ」


 日頃どちらかといえば助けられる側にしか居ない僕は、どういう風に声を掛ければいいかとか分からないけど。
 本当に助けて欲しいときっていうのはあって。
 被害者にしかなったことのない僕はそれがどれだけ嫌かって事も分かる。

 助けて欲しいけど、誰も助けてくれない辛さも知っている。

 だから、周りの人が知らぬ振りして歩いて行くんなら、佐古を知っている僕しか助ける事はできないと思った。


「や、やめてあげてくださいっ・・・!」


 振り絞って出した声は変な所で裏返ったうえに、少し声が大きかった。





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