僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
27






 時刻ギリギリで滑り込んできたバスには2名のお年寄りが乗っているだけだった。バスに乗り込むと、薮内先輩に腕を引かれ、一番後ろの座席に連れて行かれ、窓際に僕を座らせるとその隣に先輩が腰掛けた。

 走り出したバスの車窓から外の景色を眺めていると、膝に乗せた僕の手を薮内先輩が握り締めてきた。

 反射的に振り払おうとしたのに、それを読んでいたのか、力が込められていて外れなかった。

「俺のこと怖い?」

「え・・・いや、・・・というか。なんで、僕のこと・・・。」

「ん?あー・・・なんか気になるから、じゃダメ?」

「面識、ないです。」

「だな。なんか見かけて気になったから、こっそり後つけたりー、椿ちゃんのクラスの友達に、色々聞いたり?」

「えぇっ!?」

 まさか。

 僕の知らないところでそんな事になってたなんて。



「なんで、僕なんか・・・。」

「人を好きになるのに理由なんか要らないだろ?なんだかこの人が好きだ、で良いんじゃないの?」

「す・・・っ」

「そ、好き。・・・・いや、恋っていうよりかはまだ気になるって程度なんだけどね。そんな目で俺は椿ちゃん見てるから。」

「そんなっ、ありえない・・・だって・・・」

 あの購買で出会ったときは、僕を田嶋椿だと確認するような言い草だった。

「ありえないなんて俺のこと否定すんなよ〜。椿ちゃんも、俺のこと・・・好きになれそうかどうかって、そういう目で見てよ。つーか、まぁそうなるように俺は頑張るだけだけど、さ。」

「み、見れませんっ」

「また否定?傷つくなぁ。・・・会長の事は結構受け入れてるみたいなのに。やっぱりああいうのが好みなんだ?」


「っ、会長とか・・・関係ないですから。」

「生徒が少ないことを良い事に、食堂で仲良さそうにしているみたいだけど?」

「・・・!」

 やっぱり・・・会長と一緒に居る所を見て、誰も何も言わない訳ないんだ。


「僕なんかのどこがっ・・・」

「だから、理由なんて無いって。どうしてもって言うなら・・・そうだな〜小さくって、おとなしそうな感じが、かな?うちの学校どうも媚びるヤツ多いだろ?椿ちゃんにはそれがない。」

「そんな・・・」

 そんなのが好きになる理由になるのだろうか?
 第一、見た目の印象だけで僕の中身なんて知らないだろうになぜそこまで言い切れるのだろうか。

 僕が知らないだけで・・・

 好きって気持はそういうものなの?

 確かに一般的には一目惚れなんて言葉があるし、僕だって会長をひと目見たときに感じた何かはあった。
 だが、僕を見てそんな風に思う人が?


「あー・・・。ま、なんていうか仲良くしようよ?友達なら何人居てもいいだろ?」

 にっこりと微笑み、そんな風に言われてしまったら、頷くしかなかった。

 その後も、街まで向かうバスの中で薮内は自分の事を話したり、僕のことを聞かれたりして、気がつけばだんだんと外の景色が賑やかになってきた。

 駅前で先輩と共にバスを降りると、先輩は電車に乗るらしく、別れ際に手を強く握られて「またね、椿ちゃん」とささやいて駅に吸い込まれていく。



 僕は僕で駅に隣接されてあるショッピングセンターに入ろうと直ぐに足を運んだ。
 薮内先輩を信用しないわけではないけど、何か引っかかって素直に喜べない。何より今までそんな事を言ってもらった事がないから・・・・だから信用ならないのかもしれない。

 それなら僕に問題がある・・・。



 先輩も友達からと言ってくれたのだし、僕も焦らず先輩を見ればいい。
 友達になれるようならば・・・なりたい。
 友達と言える人が、欲しい。
 こうやって、街で買い物を一緒に楽しめたら、と思うから。

 薮内先輩はちゃんと僕を見てくれる人だろうか―・・・?





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