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僕をよろしく
26








 昨日、会長に言われたように、管理室でバスの時刻表を貰って、部屋に帰ってから街に下りる時刻を調べた。

 山の上にある学校なだけあって、下りるといってもバスは色々な方向に下りていくらしく、僕の思っていた大きな駅のある方向のバスは本数は多いけど、遠回りして向かうものもあり、バスに乗りなれない僕の頭を悩ませる。

 まぁ、時間はたっぷりあるから方向さえ間違わなければ大丈夫だろう、と時刻表を机に置いて朝食を食べる為に食堂に向かった。


 昨日と同じ席に座り、一人で外を見ながら朝食を口に運ぶ。
 皆寮を出たのか、それともただ単に食堂に顔を出さないだけか、昨日よりも食堂は静まり返っていた。


 今日は街に出て、本屋と、CD屋と・・・雑貨なんか見て回ってもいい。このところ必要以上に気持ちと言うか、考えが揺さぶられる事が多くて、一人で過ごす事があっても安らげなかった。

 外に出れば、良い気分転換にもなるだろうし。

 そうやって今日の日程なんかを考えていると、街に下りるのが楽しみになってきて、早めに街に向かってもいいかな、と席を立った。

 食べ終わったトレイを戻し、食堂を出ようと向かうとちょうど食堂にやってきた会長が入ってきたところだった。


「あぁ、おはよう田嶋。昨日はありがとう」

 先に僕のことを見つけたらしい会長からにこやかに声を掛けられて、頬が赤らむ気がした。

「お、はようございます。・・・・あの、大丈夫でしたか?仕事の方・・・終わりました?」

「・・・うん、何とか終わらせた。寝坊したけどね。」

「じゃぁ、もう会長も寮出るんですね。」

「まぁ、家が近いといえども顔は出しておかないとね。・・・田嶋は本当に帰らないのか?今日は街へ?」

「はい・・・。街では色々買い物しようかと思っています。バスの時刻表、助かりました。」

「そうか、気をつけてな。あ、そうそうこの本良かったら。」

 そう言って差し出されたのは昨日僕がコーヒーを用意している途中で夢中になった本。会長が・・・ベンチで読んでいた、本。

「え・・・」

「良かったらやるよ。もう読み終わったし。」

「そんな、いえ、今日街に出ますから、自分で買います」

「無駄遣いだろ、いいよほんと、貰って。」

「・・・・・ありがとうございます!」

「あ、それと良かったら田嶋・・・・、いや、やっぱいいや。」


 会長が何を言いかけたのか、気になるところだったが、会長が言葉を切ったことの意味を、僕も直後に理解して聞き返すことができなかった。

 生徒が減ったといえども、まだ残っている生徒が居るのだ。食堂へ来た生徒の視線を感じて、僕も会長も思わず言葉を飲み込んだ。

「・・・じゃ、失礼します。本・・・ありがとうございました。」










 寮の前にあるバス停に少し早めに着くと、時刻表を確認してベンチに腰掛け街へ出るバスを待っていた。


「おっ。田嶋椿・・・。」

 名前を呼ばれて反射的に顔を上げると・・・知らない人が。このバス停を使うのは学校の人間しかいないからうちの生徒らしいという事はなんとなく分かった。
 でも・・・・会った事あったっけ?なんて聞くのは失礼だと思い、無言で相手の言葉を待った。

「あれ。その様子じゃ覚えてないんだ?」

 へらっと笑ったその笑顔に、どこかで、と思うもやっぱり思い出せない。

「ご、めんなさい・・・。」

「いいよー俺も名乗ってないし。ほら、一度購買で声掛けたんだけど・・・覚えてない?」

「あ。」

 すれ違いざまに、腕を掴まれ壁に・・・・あの時の、2年生。
 思い出したと共にざわりと鳥肌が立つ感じがした。

「思い出した?」

「・・・・ハイ、購買で・・・先輩、ですよね?」

「そうそう、正解。俺二年の薮内詠仁(ヤブウチ エイジ)どうぞ宜しく。」

「はぁ・・・」

「椿ちゃんはこれから街?」

「ちゃ・・・・・・はい。買い物でもって・・・」

「なら駅まで一緒に行こう。俺も友達に会いに行く所なんだ。」

 馴れ馴れしい、そんな先輩に動揺しつつも、大して本数の多いわけじゃないバスを変えてまで避ける理由もなかった。





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